コラム

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医師のこと・医院のこと

漢方的病態と漢方薬のベクトル

 

 漢方治療というのは、その方の漢方的な状態を把握して、各生薬の特性を踏まえ方剤全体としてはどのような方向性と強さをもつのかを考えながら治療を行っていきます。

 ベクトルというのは、方向性をもった量のことです。その方の漢方的な状態を把握するにも、方剤の方向性と強さを理解するにも、ベクトルという概念を用いると理解しやすいので、今回はあえてベクトルという言葉を使います。

 その方の状態を漢方的なベクトルとして把握するためには、軸と、その軸を測る物差しが必要になります。これらの指標がなければその人の漢方的なベクトルがわかりませんし、治療に必要な方剤のベクトルも把握することができません。

 では、どのような軸があるのでしょうか。

 私は、気、血、水、火、精の5つで考えます。日本漢方では、気、血、水で考えることが多いですが、これに火と精を加えると病態を理解しやすくなります。火を気のなかに含める考え方もありますが、方剤のベクトルを理解するのには、火と気は分けたほうがよっぽど考えやすいです。

 

 気・血・水・火・精の5つの軸によって、それぞれをどのように測るのでしょうか。

 なかなか数字として測れるものではないので、気血水火精のそれぞれが、過剰か、正常か、不足か、うっ滞して分布異常をきたしているかを大まかに把握します。

 気血水火精の過不足、うっ滞が全て異常なのでしょうか。

 気は、過剰は問題となることはあまりありませんので、主に不足かうっ滞なのかを見ていきます。血は、主に不足していないかを中心に見ていきます。水や火は、過剰でも不足でもよくないので、過不足とうっ滞すべてをチェックしていきます。精については、主に不足がないかを見ていきます。

 

 次に、これらをどのように判断するかについてです。

 情報量として、一番多いのは問診だと思っています。主訴だけでなく、周辺の不調もチェックしていくと、大まかに、気血水火精のうち、どれがどうなっているから、今の状態になっているかが、浮かび上がってきます。

 そのうえで、身体の所見を確かめていきます。舌や脈、腹、足の所見などから、想定した状態が実際に確認できるのかという視点で見ていきます。

 

 このようにして、気血水火精のそれぞれのパラメータがわかってきます。あとは何をするかというと、その人を治するのに必要なベクトルに対して、最も近い方剤を見つける作業をして、終了です。あとは、効果を期待して、待つことになります。

 

 もちろん、弁証はこれだけではないので、他の弁証の方法も別の機会で触れられればと思っています。

 

 

2020.01.28 | 医師のこと・医院のこと,漢方内科,漢方治療について

双極性障害のうつ状態の特徴

 躁うつ病と言えばどんな病気かはイメージができると思いますが、双極性障害はイメージできるでしょうか。

 躁うつ病は明らかな躁状態と明らかなうつ状態を繰り返す病気のことですが、双極性障害はそれよりも広い概念でもっと軽い病状も含んだ診断名です。

 双極性障害には、症状が激しい順に、双極Ⅰ型障害、双極Ⅱ型障害、気分循環性障害などがあります。

 双極Ⅰ型障害は、躁うつ病のように激しい気分変動があるため、診断が間違われることはあまりありませんが、双極Ⅱ型障害や気分循環性障害などは見逃されやすい病気です。

 理由はいくつかあります。軽い躁状態は自分のなかで異常なものとは認識しにくいだけでなく、その爽快な状態を自身の本調子として自覚しておられます。そのため、主治医がうまく聞き出さないと、ご本人から軽躁状態の話が挙がることが少ないことが挙げられます。また、軽い気分変動の場合には、しっかり記録をつけて振り返らないと自分の波に気がつくことが難しかったりもします。特に女性の場合は月経関連の不調もあるのでさらにわかりにくく、月経の波か他の波なのか判別しにくいものです。

 躁状態や軽躁状態以外にも、双極性障害の方の特徴があります。ここでは、あえて二つだけ、ご本人にも比較的わかりやすいものをお話しします。

 一つ目は、うつ状態のときの睡眠と食事についてです。普通の単極性うつ病では「寝れない」「食べれない」というのが通常ですが、「寝すぎる」「食べ過ぎる」など非典型的なうつ状態の方は、将来双極性障害になっていく可能性があります。双極性の方が皆、過食と過眠をきたすわけではありませんが、典型的な単極性うつ病の方に比べて、このような傾向が目立ちます。

 二つ目は、気分反応性というものです。どんな人でも、良いことがあれば嬉しくなり、悪いことがあれば悲しくなる。人間として正常な心理活動ですが、非定型うつ病の方には、喜怒哀楽などの心理反応が過剰に表れやすいと言われています。これを「気分反応性が高い」と言います。双極性障害の方にも、このような特徴を持ち合わせている方がおられます。良いことには容易にハイテンションとなり、悪いことには絶望的に落ち込む。このような明らかに過剰な情動変化を見つけたときにも今後の経過に注意が必要です。

 「新型うつ病」という休日には元気になるといううつ病があります。これは医学的な診断名ではありませんが、昨今注目されているものです。多くは適応障害の類いであると思われますが、非定型うつ状態の方も前述の気分反応性の高さによって、新型うつ病のように見えることがあります。好きなことには元気がでてしまうため、休日に動けてしまうからです。そのため、新型うつ病と思われている方のなかに双極性障害が隠れていることがあります。

 ここでは、過食と過眠、気分反応性について触れました。双極性障害には、他にも、うつ状態の持続期間の長さ、発症年齢の若さ、抗うつ薬で躁転、家族歴がある、産後うつ病、季節性があるなどの双極性障害を疑うポイントがありますので、別の機会で触れればと思います。

 

2020.01.27 | うつ病・躁うつ病,医師のこと・医院のこと,心療内科

自律神経失調症は漢方の出番です

 頭痛、全身倦怠感(体のだるさ)、疲労感(疲れやすい)、食欲低下、微熱、熱っぽい、顔の火照り、のぼせ、不安、いらいら、怒りっぽい、憂うつ、動悸、息苦しさ、手足の冷え、手足のしびれ、めまい、ふらつき、腰痛、背部痛、喉の痞え、口内炎、喉の渇き、胃の不快感、胃もたれ、胃痛、胸やけ、吐き気、下痢、便秘、腹痛、肩こり、筋肉の痛み、生理不順、寝汗、、、、

 困っている症状があり、病院を訪れ、検査をして、何らかの異常が見つかり、病名がわかり、その治療を行って、症状はよくなれば、一件落着です。しかし、このようなケースばかりではありません。 いろいろ検査をしてもこれといった原因が見つからないことや、多少の検査結果の異常はあるけれども症状を説明できるほどではないことは頻繁にあります。

 このようなときによく使われるのが「自律神経失調症」で、他に病気は見つからないため、自律神経のバランスが崩れて身体に失調をきたしているとして用いられます。自律神経は交感神経と副交感神経から構成されますが、実際に交感神経系と副交感神経系の働きを測定して診断されることはあまりありません。

 現代医学的に自律神経の乱れとしか説明できないような場合でも、漢方医学的にみると原因は明らかであることがあります。自律神経失調症の中には、漢方のコモンディジィーズ(日常的に高頻度で遭遇する疾患)とも言える病態が多く隠れています。

 私も漢方を勉強するまでは、「自律神経失調症」と診断されたという方に対して、「悪い病気はないのだから、心配せずに様子を見ましょう」とか、「精神的なストレスか一因だろうから少量の抗不安薬で様子を見ましょう」とか、説明していた時期もありました。ところが、漢方の知識と経験が付いてくると「これぞ、漢方の出番」という場面が本当に数多くあることに気が付きました。

 残念ながら、今まで多くの「漢方の出番」を見逃していました。

 

 もちろん、不規則な生活習慣や、ストレスとなっている環境を見直したりすることは必要です。それでも、なかなか症状がよくならない場合は漢方薬を試してみてもいいかもしれません。

 漢方薬は、薬全体のベクトルが間違っていると、よくならないだけでなく、悪くなることもあります。漢方の専門の先生のところで相談してみるといいかもしれません。

 その患者様にちゃんと合っていると、こころの症状にも、からだの症状にも、複数の症状に対して同時に効果が出てきます。

 

2020.01.25 | 医師のこと・医院のこと,心療内科,漢方内科,漢方治療について,自律神経失調症