心療内科
眠気と睡眠のリズムについて
今日は、眠気と睡眠のリズムについて、簡単に説明します。説明には、二過程モデルというものを用います。
まずは、概日リズム、いわゆる体内時計について触れます。
この概日リズムは、睡眠と覚醒の制御において非常に重要なものです。
概日リズムは、サーカディアンリズムとも言い、サーカ(約=概)とディアン(1日=24時間)をつなげたもので、約24時間リズムという意味です。
この概日リズムは、外部の明暗環境が一定でも、大体24時間に保たれます。脳の中の視交叉上核というところがこの体内時計を調節し、光で調整されます。この視交叉上核の一つ一つの細胞に時計があることがわかり、今では体のどの細胞にもこの時計があることがわかっています。
この概日リズムによる眠気は、昼過ぎに小さな山ががあり、その後眠気はなくなり、夕方にまた小さいな山があり、寝る頃に大きな山がきて、朝までその山が続きます。そして、朝起きると、眠気はなくなり、また昼過ぎに小さな山があり、、、、と毎日繰り返されます。
概日リズムは朝にリセットする必要があるので、朝日を毎朝ちゃんと浴びることが重要になります。
朝に起き、夜の程よい時間に寝ることができている人は、この体内時計が保たれているということです。
しかし、昼まで寝ることを繰り返していると、体内時計がずれてしまいます。とくに、遮光カーテンを閉めきって寝ていると、体内時計はずれやすくなります。
昼間まで寝ていたとしても、日光が入る部屋であれば、瞼を通して光が少しでも入っていれば、概日リズムはずれにくいと言われています。
睡眠と覚醒のリズムに関して、もう一つ重要なのものは、睡眠負債です。
睡眠負債というのは、文字の通り、睡眠の借金です。
覚醒している状態が続くと、睡眠の借金は徐々に増えていきます。
「寝だめ」という言葉があります。しかし、実際には睡眠を貯めておくことはできず、マイナスになった睡眠の借金を返済することしかできません。
概日リズムの眠気に加えて、睡眠負債による眠気が溜まってきて、夜の眠気が出てきます。
言い換えると、実際に感じる眠気は、先に述べた概日リズムによる眠気と睡眠負債による眠気を足し合わせたものということです。
徹夜明けでも頭がスッキリと起きてくるのは、朝になって睡眠負債は積み重なっていくにもかかわらず、概日リズムによる眠気がなくなるからです。
時差ぼけも、このモデルで説明できます。
この二過程モデルは、眠気の細かな複雑な変化を説明できない難点はあるようですし、情動の影響による眠気の減少などは無視していますが、大まかな説明はできると言われています。
睡眠で困った際には、今回の話をイメージしてみると、解決策がわかることもあるかもしれません。
もちろん、睡眠や精神の病気による睡眠障害は、このモデルでは説明できまませんので、生活は規則正しくしているけれども、睡眠がとれないというときには相談していただければと思います。
2020.03.06 | 不眠症・睡眠障害,医師のこと・医院のこと,心療内科
軽躁状態ってどんなの?
私は、うつ状態でお見えになった方には、必ず「頭も体も軽くて、頑張り過ぎていた時期はないですか?」と聞きます。
もし「ない」とおっしゃっても、うつ状態が典型的ではない場合には、
・「寝る時間を惜しんで、何かに没頭していた時期はありますか?」
・「次々とアイデアが浮かんで、過活動していた時期はありませんか」
・「友達にテンションが高くて、心配されたことはないですか?」
・「何でもできるように感じて、爽快に動き回っていた時期はないですか?」
などと表現を変えて、確認します。
いろいろな確認の仕方をしても、軽躁状態は見つけられないことがあります。
それは、軽躁状態というのは、双極性障害の方にとって、本来の状態(本調子)だと思っておられることが多いからです。
そのため、いくら聞いても「そんなことはない」ということになります。
周りの人の方が、よっぽどその人のことをよくわかっていることもあるので、同伴された家族や友人に聞いてみて、初めて軽躁状態が発覚することもあります。
なぜこれを知りたいかというと、うつ状態の方の中に、双極性障害の方が一定の割合で混じっているからです。
双極性障害は上記のような理由から見逃されやすく、うつ病の治療を始めて、数年経ってから、躁状態や軽躁状態をきっかけに、ようやく診断が双極性障害に切り替わることも多くあります。
治療についてはどうかというと、うつ病のうつ状態と、双極性障害のうつ状態とで、もちろん治療法が異なります。
うつ病は、新規抗うつ薬(SSRI、SNRI、Nassa)をメインで使いますが、双極性障害では、気分安定作用のある薬(クエチアピン、オランザピン、リチウム、ラモトリギンなど)を用います。
うつ病と双極性障害では治療薬が異なるため、診断がとても重要になります。治療が違っていると、当然良好な経過は得られません。
うつ状態の方が受診される場合には、自身の若い頃から気分の浮き沈むがなかったかを振り返ってみたり、家族や友人に過去にテンションが高い時期がなかったかについて聞いてきたりしてみてください。
診断の助けになりますので、大変助かります。
今回は、軽躁状態と双極性障害について触れ、受診の際のお願いを最後に付け加えさせてもらいました。参考になれば幸いです。
2020.03.05 | うつ病・躁うつ病,医師のこと・医院のこと,心療内科
うつ状態のときの大きな決断について
うつ病の治療を行っていると、仕事のことは絶対に避けて通れません。
今回は、退職や転職などの決断について大事なことをお話しします。
それは、「うつ状態ときには重大な決断をしない」ということです。
なぜかというと、うつ状態のときは、しっかり頭が回らず、冷静に物事を考えられないだけでなく、うつ症状によって悲観的な観測ばかりをしてしまうためです。そのため、良い判断はできません。
退職だけではありません。離婚や大きな取引ついても同じです。
これらの不可逆的(元に戻すことができない)な重大な決断は、頭がよく回るようになってから、冷静に物事を考えて行うのがよいと思います。
そのため、診察時にうつ病の方が「もう体が動かなくて会社に行けないから退職しようと思っている」「とにかく仕事から離れたいから退職届を出すつもりです」とおっしゃったとしても、「まずは休職して、よくなってから冷静に考えてください」と説得します。
うつ病の最中に退職してしまって、短期的には仕事の重圧がなくなって気持ちは楽になりますが、うつ病がよくなって本調子になってから後悔してしまうこともあります。仕事だけでなく、結婚や大きな取引も同様です。
一方で、決断を延期するように促さない場合もあります。
うつ症状が軽度で判断力がある方が「ここの会社はどうしても自分には合わないから転職をしようと思っている」とおっしゃったなら、多くの場合は反対しません。
明らかに衝動的な決定だったり、明らかに良くない決断である場合には「もう一週間だけ考えましょう」とアドバイスしたり、「もう少し時間をかけて一緒に考えていきましょう」と解決策を一緒に考えていく姿勢をとっていきます。
不用意に重大な決断をしてしまったことで、後々になって、心にも、社会的にも、大きな痛手を負ってしまうことがあります。
人の人生というのは、節目節目で、何かを選んで、場合によっては何かを捨てて、形づくられていきます。
うつ病になったということは、無理が生じてきた結果であり、人生の一つの節目になることが多くあります。
だからこそ、大きな決断は慎重にしていくべきですし、良い決断ができる状態で、しかるべき時期にしっかり行ってください。
できるかぎり不利益がないだけでなく、将来に活きる決断ができることを願っていますし、主治医としてもできるかぎり助けになれればと思っています。
2020.03.04 | うつ病・躁うつ病,医師のこと・医院のこと,心療内科