「 うつ病」の記事一覧
軽躁状態ってどんなの?
私は、うつ状態でお見えになった方には、必ず「頭も体も軽くて、頑張り過ぎていた時期はないですか?」と聞きます。
もし「ない」とおっしゃっても、うつ状態が典型的ではない場合には、
- 「寝る時間を惜しんで、何かに没頭していた時期はありますか?」
- 「次々とアイデアが浮かんで、過活動していた時期はありませんか」
- 「友達にテンションが高くて、心配されたことはないですか?」
- 「何でもできるように感じて、爽快に動き回っていた時期はないですか?」
などと表現を変えて、確認します。
いろいろな確認の仕方をしても、軽躁状態は見つけられないことがあります。
それは、軽躁状態というのは、双極性障害の方にとって、本来の状態(本調子)だと思っておられることが多いからです。
そのため、いくら聞いても「そんなことはない」ということになります。
周りの人の方が、よっぽどその人のことをよくわかっていることもあるので、同伴された家族や友人に聞いてみて、初めて軽躁状態が発覚することもあります。
なぜこれを知りたいかというと、うつ状態の方の中に、双極性障害の方が一定の割合で混じっているからです。
双極性障害は上記のような理由から見逃されやすく、うつ病の治療を始めて、数年経ってから、躁状態や軽躁状態をきっかけに、ようやく診断が双極性障害に切り替わることも多くあります。
治療についてはどうかというと、うつ病のうつ状態と、双極性障害のうつ状態とで、もちろん治療法が異なります。
うつ病は、新規抗うつ薬(SSRI、SNRI、Nassa)をメインで使いますが、双極性障害では、気分安定作用のある薬(クエチアピン、オランザピン、リチウム、ラモトリギンなど)を用います。
うつ病と双極性障害では治療薬が異なるため、診断がとても重要になります。治療が違っていると、当然良好な経過は得られません。
うつ状態の方が受診される場合には、自身の若い頃から気分の浮き沈むがなかったかを振り返ってみたり、家族や友人に過去にテンションが高い時期がなかったかについて聞いてきたりしてみてください。
診断の助けになりますので、大変助かります。
今回は、軽躁状態と双極性障害について触れ、受診の際のお願いを最後に付け加えさせてもらいました。参考になれば幸いです。
うつ状態のときの大きな決断について
うつ病の治療を行っていると、仕事のことは絶対に避けて通れません。
今回は、退職や転職などの決断について大事なことをお話しします。
それは、「うつ状態ときには重大な決断をしない」ということです。
なぜかというと、うつ状態のときは、しっかり頭が回らず、冷静に物事を考えられないだけでなく、うつ症状によって悲観的な観測ばかりをしてしまうためです。そのため、良い判断はできません。
退職だけではありません。離婚や大きな取引ついても同じです。
これらの不可逆的(元に戻すことができない)な重大な決断は、頭がよく回るようになってから、冷静に物事を考えて行うのがよいと思います。
そのため、診察時にうつ病の方が「もう体が動かなくて会社に行けないから退職しようと思っている」「とにかく仕事から離れたいから退職届を出すつもりです」とおっしゃったとしても、「まずは休職して、よくなってから冷静に考えてください」と説得します。
うつ病の最中に退職してしまって、短期的には仕事の重圧がなくなって気持ちは楽になりますが、うつ病がよくなって本調子になってから後悔してしまうこともあります。仕事だけでなく、結婚や大きな取引も同様です。
一方で、決断を延期するように促さない場合もあります。
うつ症状が軽度で判断力がある方が「ここの会社はどうしても自分には合わないから転職をしようと思っている」とおっしゃったなら、多くの場合は反対しません。
明らかに衝動的な決定だったり、明らかに良くない決断である場合には「もう一週間だけ考えましょう」とアドバイスしたり、「もう少し時間をかけて一緒に考えていきましょう」と解決策を一緒に考えていく姿勢をとっていきます。
不用意に重大な決断をしてしまったことで、後々になって、心にも、社会的にも、大きな痛手を負ってしまうことがあります。
人の人生というのは、節目節目で、何かを選んで、場合によっては何かを捨てて、形づくられていきます。
うつ病になったということは、無理が生じてきた結果であり、人生の一つの節目になることが多くあります。
だからこそ、大きな決断は慎重にしていくべきですし、良い決断ができる状態で、しかるべき時期にしっかり行ってください。
できるかぎり不利益がないだけでなく、将来に活きる決断ができることを願っていますし、主治医としてもできるかぎり助けになれればと思っています。
双極性障害のうつ状態に用いられる代表的な気分安定作用のある薬
双極性障害のうつ状態の治療についてです。表題には、気分安定薬ではなく、あえて気分安定作用のある薬と書きました。
双極性障害の方は躁状態に比べうつ状態の期間が長いことが多く、うつ状態が長らく生活に支障を及ぼしてしまうことがあります。
双極性障害のうつ状態にも昔は抗うつ薬も使われていましたが、最近では抗うつ薬のみでの治療は、躁転を引き起こしたり、かえって気分の波を荒げたりするため勧められていません。
双極性障害のうつ状態にどんな薬を使うかというと、それが気分安定作用のある薬です。
双極性障害のうつ状態には、クエチアピン(商品名セロクエル、ビプレッソ)、オランザピン(商品名ジプレキサ)、リチウム(商品名リーマス、炭酸リチウム)、ラモトリギン(商品名ラミクタール)などが勧められています。
各薬剤についての代表的な注意点について簡単に触れます。
まず、気分安定薬の代表格であるリチウムです。これは躁状態にもうつ状態にも用いられ、双極性障害の治療では欠かすことのできない大事な薬です。とくに爽快なタイプの躁状態には第一選択で使うことの多い薬です。
副作用としては、急性や慢性の中毒の危険性、胎児への催奇形性、母乳への移行などがあります。
急性や慢性の中毒については定期的な血液検査や、中毒症状の早期発見、高齢者の方は定期的に休薬期間を設けるなどによって、多くを防ぐことができるので、大量服薬をしなければ、過剰に怖がる必要はありません。
催奇形性は、将来妊娠の可能性がある若年女性には当然注意が必要ですので、妊娠の可能性がある方では避けなければいけません(私は、妊娠の予定がない若年女性に対しても、最初からはリチウムは使わないようにしています)。
リチウムは、授乳中に注意しなければいけない精神科の薬として有名で、母乳にかなりの量が移行してしまいますので、授乳中は避けなければいけません。
ほかにも、リチウムは手の震えや喉の渇きがでることがよくあります。これらは治療に適切な血中濃度でも出現することが多いので、副作用とのバランスを考えながら、薬の用量を調節する必要があります。
次にラモトリギンについてです。ラモトリギンは、てんかんにも用いられる気分安定薬です。
リチウムと違うのは、躁状態よりもうつ状態への効果が強いことです。
胎児への催奇形性のリスクをあげないこともリチウムとは異なりますが、乳汁には移行するためリチウムと同じく母乳栄養は控えなければいけません。
ラモトリギンの一番の注意点は、重篤な皮膚障害を起こす可能性があることです。
この深刻な副作用は、非常に稀ですが、命にかかわることもあるので慎重にならなければいけません。
薬を初期用量から徐々に増やしていく投与初期の段階で起こると言われています。添付文書の増量ルールも守っていても発生したという報告もあるので、厳重に注意しなければなりません(ちなみに、私は添付文書よりもさらにゆっくりと増量していくようにしています。治療用量まで増量するのに時間がかかってしまいますが)。とくに、バルプロ酸(商品名デパケン、セレニカ)と併用する場合には注意が必要です。
ラモトリギンは増量するのに時間がかかりますが、他の薬で効果がなかった方がこの薬でうつ状態が目に見えてよくなることもしばしばありますえので、正しい知識で正しく怖がって治療に当たる必要があります。
最後に、クエチアピンとオランザピンに触れたいと思います。
両剤とも、元々は統合失調症などの幻覚妄想状態に使う薬でした。しかし、最近になって気分安定作用があることがわかってきたため、双極性障害にも用いられるようになってきています。
長所としては、リチウムやラモトリギンのような重大な副作用がないことです。妊娠中にも授乳中にも明らかな悪影響はないと言われており、有益性が上回れば使用も可能です。
しかし、欠点はあります。
一つ目は、糖尿病を引き起こすことがあることです。 食欲が増えたり、太りやすくなったりして、血糖値が挙がりやすくなり、両剤とも糖尿病には禁忌(絶対使ってはいけない)となっています。定期的に、高血糖をきたしていないかをチェックしていく必要があります。
二つ目は、眠気が出やすいことです。そのため、気分安定作用がでる用量まで増やせないことが多くあります。慣れてくると眠気は多少減ってきますが、それでも眠気が耐えられないというケースもどうしてもあります。
3つ目は、ムズムズしてじっとしていられないアカシジアという副作用が出現することがあることです。このアカシジアが出た場合は、薬を減量したり、変えたり、副作用止めを追加しなければなりません。
今日は、双極性障害のうつ状態の代表的な4つの治療薬の、代表的な特徴について触れました。
薬剤によって副作用が異なり、合併症や性別、躁状態やうつ状態のタイプなどによって、薬を選んでいきます。開始後は副作用に確認し、問題なければ、治療に必要な用量まで増やし、効果を判定していきます。副作用のため増量できない、あるいは増量できたが効果がないということであれば、もう一度薬を見直して、他のものを検討し、また効果を判定していきます。そして、治療中には数か月毎には血液検査をして、副作用が出ていないかのチェックを続けていきます。このような作業を繰り返しながら、副作用が少なく、効果のある薬を見つけていきます。
治療を受けておられる方、あるいは今から治療を受けようとされている方の参考になれば幸いです。
今日は薬について触れましたが、治療は薬物療法だけではありません。双極性障害の治療のゴールは「躁状態やうつ状態の波をゼロにすること」ではなく、「躁状態やうつ状態の波とうまく付き合っていける程度に症状をコントロールしていくこと」だと考えています。実際の治療では、どのように気分の波を乗りこなしていくかという観点も重要になってきます。機会があれば、その点についても触れればと思っています。
抗うつ薬の中止後症状について
うつ病パニック症・パニック障害・広場恐怖症全般不安症・全般不安障害強迫症・強迫性障害心療内科社交不安症・社交不安障害(対人恐怖、社交恐怖、あがり症)精神科躁うつ病
昔は抗うつ薬というとうつ病の薬でしたが、最近では、うつ病だけでなく、不安障害全般(パニック障害、強迫性障害、PTSD、全般性不安障害など)、月経前不快気分障害(PMDD)などに使われるようになっています。
抗うつ薬によって症状がよくなり、再発のリスクの高い期間を過ぎたら、環境的にも心理的にも落ち着いていれば減薬を勧めていきます。そして、減薬中に再発がなければ、最後に抗うつ薬を中止していきます。
今日は、抗うつ薬を最終的に中止するときの注意点についてお話しします。
基本的には抗うつ薬は依存性がなく中止できますが、それでも中止後症状という現象が起きることがあります。
その中止後症状の多くは、薬を中止後5日以内に起こることがほとんどです。
中止後症状には、さむけ、筋肉痛、発汗、頭痛、吐き気、眠れない、夢をみる、風邪のような症状、めまい、音に敏感になる、涙が出続ける、落ち着かない、イライラする、理由もなく不安になる、集中力がでない、などがあります。
多くは軽い症状なので、様子をみるだけで徐々に落ち着いてきます。
症状が再発したと、焦って、薬をすぐに再開する必要はありません。
しかし、しばらく経っても落ち着かない場合には、中止後症状だけではなく、症状が再発していることもあるので注意が必要です。
何度も中止に失敗している方の場合には、薬を半錠、1/4錠(場合によってはそれ以上の少量)と減らしていって中止していきます。
半減期の長い抗うつ薬に切り替えてから、ゆっくり減薬して、中止していくという方法をとることもあります。
薬は、正しい知識によって正しい用い方をしないと、うまく増量できず治療が成功しなかったり、薬がやめれなくなってしまいます。心配な場合には、主治医の先生に相談してみてください。
双極性障害のうつ状態の特徴
躁うつ病と言えばどんな病気かはイメージができると思いますが、双極性障害はイメージできるでしょうか。
躁うつ病は明らかな躁状態と明らかなうつ状態を繰り返す病気のことですが、双極性障害はそれよりも広い概念でもっと軽い病状も含んだ診断名です。
双極性障害には、症状が激しい順に、双極Ⅰ型障害、双極Ⅱ型障害、気分循環性障害などがあります。
双極Ⅰ型障害は、躁うつ病のように激しい気分変動があるため、診断が間違われることはあまりありませんが、双極Ⅱ型障害や気分循環性障害などは見逃されやすい病気です。
理由はいくつかあります。軽い躁状態は自分のなかで異常なものとは認識しにくいだけでなく、その爽快な状態を自身の本調子として自覚しておられます。そのため、主治医がうまく聞き出さないと、ご本人から軽躁状態の話が挙がることが少ないことが挙げられます。また、軽い気分変動の場合には、しっかり記録をつけて振り返らないと自分の波に気がつくことが難しかったりもします。特に女性の場合は月経関連の不調もあるのでさらにわかりにくく、月経の波か他の波なのか判別しにくいものです。
躁状態や軽躁状態以外にも、双極性障害の方の特徴があります。ここでは、あえて二つだけ、ご本人にも比較的わかりやすいものをお話しします。
一つ目は、うつ状態のときの睡眠と食事についてです。普通の単極性うつ病では「寝れない」「食べれない」というのが通常ですが、「寝すぎる」「食べ過ぎる」など非典型的なうつ状態の方は、将来双極性障害になっていく可能性があります。双極性の方が皆、過食と過眠をきたすわけではありませんが、典型的な単極性うつ病の方に比べて、このような傾向が目立ちます。
二つ目は、気分反応性というものです。どんな人でも、良いことがあれば嬉しくなり、悪いことがあれば悲しくなる。人間として正常な心理活動ですが、非定型うつ病の方には、喜怒哀楽などの心理反応が過剰に表れやすいと言われています。これを「気分反応性が高い」と言います。双極性障害の方にも、このような特徴を持ち合わせている方がおられます。良いことには容易にハイテンションとなり、悪いことには絶望的に落ち込む。このような明らかに過剰な情動変化を見つけたときにも今後の経過に注意が必要です。
「新型うつ病」という休日には元気になるといううつ病があります。これは医学的な診断名ではありませんが、昨今注目されているものです。多くは適応障害の類いであると思われますが、非定型うつ状態の方も前述の気分反応性の高さによって、新型うつ病のように見えることがあります。好きなことには元気がでてしまうため、休日に動けてしまうからです。そのため、新型うつ病と思われている方のなかに双極性障害が隠れていることがあります。
ここでは、過食と過眠、気分反応性について触れました。双極性障害には、他にも、うつ状態の持続期間の長さ、発症年齢の若さ、抗うつ薬で躁転、家族歴がある、産後うつ病、季節性があるなどの双極性障害を疑うポイントがありますので、別の機会で触れればと思います。
うつ病がちゃんとよくなっているのかがわかる指標ってあるんですか?
今回は、うつ病がちゃんとよくなっているかがわかる指標についてです。
うつ病にはHAM-D、MADRSなどの評価尺度がいくつかありますが、ここでは専門的なものではなく、うつ状態が改善していくとともに患者様自身が実感できるものいくつかを取り上げたいと思います。
私が外来診療を行うなかでチェックしていく点は数多くありますが、そのなかでとくに代表的な3つについて触れていきます。
治療経過中にいろいろな変化がでてきますが、そのなかでも実感しやすいものを一つ目に取り上げます。それは、「笑える」ということです。「笑う」というのはごく当たり前の行為ですが、この当然の行為がうつ状態ではできません。そのうえ、できてなかったことに長らく気が付いていないことがほとんどです。
うつ病が少しよくなってきたあたりで、「お笑い番組を見て久しぶりに笑いました。笑ってから、ずっと笑えてなかったことに気が付きました。半年ぶりくらいは笑ってなかったのではないでしょうか」とおっしゃります。
この「笑えた」という体験はご本人にとって、かなり実感しやすい指標で、明るい兆しになります。患者様にもちゃんと治療の効果がでてきることを身をもって体感してもらい、安心して引き続き治療を続けてもらうようにお伝えしていきます。
次の指標も、笑えるようになるのと同じように比較的実感しやすいものです。
新聞などの活字の文章を読んで、ちゃんと頭に入ってくるということです。これが結構重要で、うつ状態が改善して、頭がちゃんと回るようになってきた証拠です。とくに、元々新聞を読む日課があった方にはとても実感しやすく、「新聞などの活字の文章を読んで、頭に入ってくる」とおっしゃります。うつ状態が改善して、頭がちゃんと回るようになってきた証拠です。
「ずっと眺めていただけだったけど、最近は新聞の記事がちゃんと頭に入るようになってきた」というふうによくなってくると、ご自宅で規則正しい生活をしてもらうだけなく、徐々に図書館などへの外出を促していく段階になってきます。この「文章を読んで頭に入る」というのは、治療者としてどの段階にあるのかを確認するうえでとても重要な通過点です。
最後は、復職に向けての大事な指標です。うつ病は症状がよくなってからも、しばらく社会生活を休んでいた影響もあり、リハビリのような慣らし期間が必要になります。社会生活を営むという行為は脳も身体もずっと走り続けているようなものなので、しばらく社会生活を休んだあとに突然同じようなペースで走ろうと思っても当然そのようにはできません。
そのため、徐々に脳も身体も慣らし運転をしながら、走りの調子を確認していくことが必要になります。週5日間仕事していたときのような生活を試験的に送ってみるのです。具体的には、通いやすい図書館に9時に行き、17時まで勉強や作業などをしてみます(もちろん昼休みはとります)。最初のうちは午前中で疲れて昼頃に帰っていても、徐々に慣れてくると9~17時で勉強や作業ができるようになってきます。
このように、一日長時間脳を働かせても疲れなくなってきて、ご本人に「復職は大丈夫そう」という感覚がでてくると、主治医としては復職を視野に入れ、会社の復職基準などを確認しながら、就労可能の判断を行っていくことになります。
今回は、うつ病の治療過程で、私が必ず確認する3つの指標をごく簡単ですがご紹介しました。 ちゃんと治療を行えば、笑えるようになり、頭が回るようになり、きっと仕事も以前のようにできるようになります。 今回の3つの指標によって、ご自身の状態がよくなっていることを捉える助けになればと思っております。
同僚にADHDではないかと言われた
「ここ最近、ケアレスミスが増えているから、ADHDではないか」と上司や同僚に言われたとおっしゃって受診される方が多くおられます。
社会人になって数年程の方の場合には実際にADHDであることが多いですが、長らく同じ会社で働いておられる方の場合では話が変わってきます。
というのも、ADHDの症状は基本的には幼少期からずっと続いているものだからです。学生時代に「落ち着きがなく、じっとしていられない」「学校の提出物を忘れることが多かった」「朝の準備に手間取り、遅刻してしまうことが多かった」などの症状があったのであれば、大人になってからもADHDの症状が残存している可能性は十分あります。
しかし、そのような過去のエピソードがなく、そのうえ社会人になって長年経っている方で、同僚に「最近不注意なミスが多いからADHDではないか」と言われた、あるいはご自身で「最近ケアレスミスが増えたからADHDではないか」と疑われた場合は、ADHDでないかもしれません。
不注意をきたす疾患はいろいろありますが、このようなケースで一番多いのは、うつ病です。うつ病でも、集中力や注意力低下がすることで、不注意症状がよく出てくるからです。ほかにも、認知症などでも不注意症状はでてきますので注意は必要ですが、ご高齢でなく、働く世代であれば、当然うつ病である可能性の方が高いです。
不注意をきたす病気は、ADHDだけでなく、うつ病や認知症など他にもあることを今回はお書きしました。お困りの方の、受診の際の参考になればと嬉しいです。
処方薬依存を防ぐ
うつ病パニック症・パニック障害・広場恐怖症全般不安症・全般不安障害心療内科精神科躁うつ病
診療に当たって気を付けていることは数多くありますが、その中でも最も慎重になるのは処方薬依存についてです。 患者様が抗不安薬や睡眠薬の依存症に陥るかどうかは、主治医の影響がとても大きいからです。そのため、当院では依存に至らないように常に注意を払っています。
依存になりやすい薬を出さなければいけない場合、治療によって辛い症状が落ち着いてくるまでの短期的な使用であることをご理解いただいたうえで処方すること。「薬が効かなくなってきたから増やしてほしい」など依存傾向が出てきた場合、増薬のリスクをお伝えし、依存になりにくく止めやすい薬に切り替えていくこと。これが依存を防ぐために大切です。
つらい症状があって来院された患者様が、気付いたら処方薬依存に陥り、何年も通院し続けなければならないといった状況はあってはなりませんが、万が一そうなった場合に減薬も成功させていくのは精神科医の責務です。苦しくない減らし方があります。 「薬がやめられない」「薬が増えてきた」「増えた薬をどうにか減らしたい」 などの方は、是非一度ご相談ください。
当院が実践していきたい医療のかたち
うつ病心療内科社交不安症・社交不安障害(対人恐怖、社交恐怖、あがり症)精神科躁うつ病
心の不調で来院される患者様に、当院が実践していきたい医療のかたちがあります。今回は、そのかたちを二つに分けてお話しします。
まず一つ目は、精神科医と漢方医として2つの視点から、治療を提案していくというものです。漢方薬で治すことができない精神疾患はもちろん多くありますが、一方で漢方薬で治すことできる心の症状というのも多くあります。また、向精神薬で通院中に漢方薬が得意とするちょっとした不調がでてくることもしばしばあります。精神科専門医・指導医として責務を果たしながらも、漢方薬で効果が期待できる病態であれば、漢方内科医の視点から新たな選択肢を提案していきたいと思っております。
二つ目は、安心して治療を受けていただくためにとても重要なことです。漢方薬と言っても副作用がないわけではありません。漢方薬をいくつも重複して使用したり、漫然と長期間服用したりすると、当然副作用は出やすくなります。また、向精神薬についても、もちろん副作用はあります。治療開始時に作用の出る前兆としてでてくる一時的なものから、すぐに中止をしなければ危険なものまでいろいろあります。漢方薬と向精神薬のメリットを比べるだけでなく、しっかりと双方のデメリットも比べ、それぞれのリスクをお伝えしたうえで治療を選んでいっていただきたくのが本来あるべき形です。つまり、説明もなく出された薬を服用するのではなく、インフォームドコンセントをしっかり受けていただいたうえで安心して治療を受けていただければと考えております。
以上のように、精神科医と漢方内科医の二つの視点から考えうる最善の選択肢を提案し、それぞれのメリット・デメリットをしっかり説明したうえで、安心して治療を受けていただくという、当院の考える理想の医療のかたちを実践していくつもりです。どうかよろしくお願いいたします。
うつ病の方の復職について
心療内科の外来を担当していると、当然うつ病で休職が必要になる方がおられます。休職に入り、治療をしっかり続けていくと、うつ状態は良くなってきますが、最後に難関があります。それが復職です。
会社によって、復職の基準というのが違います。定時勤務からでないと復職できないところ、午前中のみの時短勤務から開始できるところ、3か月間ほどの社外リワークプログラムを満了してからでないと復職がかなわないところ。会社の方針によって、復職時のハードルは結構違います。産業医としてもうつ病の復職に関わることが多いのですが、最近よく感じるのは、昔のような窓際的なポストが今は少なくなり、ちゃんと働ける状態にあるのかを企業側がとても重要視するようになってきていることです。
復職後3か月間ほどは猶予期間であり、リハビリ的な慣らし運転をしていく時期ですが、基本的にその期間を終了すると職場では周囲と同じように業務をこなしていかないといけなくなります。そのため、主治医としては、会社の復職時のハードルだけでなく、復職後3か月目以降を見越して、就労可能の判断をする時期を決定していかなければなりません。
私は、いつも生活記録表という、毎日の活動が確認できるものを書いてきてもらいます。症状と生活をを把握しながら、徐々に家だけではなく、外で過ごす時間を増やしていってもらいます。そして、最終的に9時から17時まで図書館で、資格などの勉強ができるところまでに回復してくると、復職の場所や時期の調整を始めていきます。これで多くの方はうまくいくのですが、困難な場合も当然あります。そのような場合は、外部のリワーク施設と連携して、復職を目指していきます。
皆不安を抱えながら復職をされていきます。しかし、復職まで十分な準備をし、復職後の猶予期間に十分な慣らし運転をしていけば、その不安は取り越し苦労だったことに気づきます。ちゃんと治療をし、しっかりと準備をすれば、もとのように働けるようになることが多いものです。今休職中の方は、定期的な通院治療のもとで、焦らずに社会生活のリハビリを着実に行っていきましょう。準備をしっかりすれば、不安だったものがちゃんと戻れるという確信に置き換わってくると思います。