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「いつもと違う」と感じる違和感: うつ病の行動心理と適切な距離感

                 

うつ病という疾患は、単なる「気分の落ち込み」に留まらず、思考、行動、そして身体症状が複雑に絡み合う「エネルギーの枯渇状態」です。

            

周囲の方が「いつもと違う」と感じる違和感の裏には、脳が発しているSOSが隠れています。

                     
精神科・心療内科の専門的な視点から、うつ病の方が示す行動の真意と、回復を支えるための適切な距離感について解説します。

                

                

1,行動に現れる「脳のエネルギー切れ」のサイン

                      
うつ病になると、脳の報酬系や情動を司る部位の機能が低下し、かつて当たり前にできていたことが困難になります。

これらは本人の意思ではなく、「脳の機能障害」による症状です。

<意欲の減退とアンヘドニア(快楽消失)>
                   

「好きだった趣味に興味が持てない」「テレビを見ても内容が入ってこない」といった状態は、専門用語でアンヘドニアと呼ばれます。
             

周囲に見える変化誘いを頑なに断る、以前夢中だったものに無反応になる。
真意怠慢ではなく、喜びを感じる脳のセンサーが一時的に麻痺している状態です。

<セルフネグレクト(身だしなみへの無関心)>


お風呂に入る、髭を剃る、服を着替えるといった「生活維持行動」には、実は多大なエネルギーを要します。

              

周囲に見える変化髪がぼさぼさ、同じ服をずっと着ている、部屋がゴミ屋敷化する。
真意清潔感への意識が低いのではなく、生存に必要な最低限のエネルギーを捻出するのが精一杯なのです。


            
<精神運動阻止(行動の遅延)>

                  
思考や動作が極端にゆっくりになる、あるいは逆に焦燥感からそわそわし続けることがあります。

                

周囲に見える変化返事が極端に遅い、話し方が単調で声が小さい(低揚性)。
真意脳内の情報処理速度が低下しており、会話という「マルチタスク」に対応できなくなっています。


          

2,注視すべき思考と感情の「ゆがみ」


行動の背景には、うつ病特有の認知の歪みが強く影響しています。

             
<過剰な自責感と「微小妄想」>

             
うつ病の人は、客観的に見て落ち度がないことでも自分を激しく責める傾向があります。

                   

注視ポイント「自分のせいでみんなに迷惑をかけている」「自分は価値がない人間だ」といった発言。
リスクこれが進行すると、経済的に困窮していないのに「破産する」と思い込む「貧困妄想」や、取り返しのつかない罪を犯したと思い込む「罪業妄想」に繋がることがあります。


<希死念慮(死にたい気持ち)の兆候>

                       
「死にたい」と口にするだけでなく、以下のような行動は緊急性が高いサインです。

             
• 身の回りの大切なものを整理し始める(身辺整理)。
• お世話になった人に突然、別れの挨拶のような連絡を入れる。
• 急に憑き物が落ちたように穏やかになる(決意による一時的な安定の危険性)。

             

           

3,周囲にできる「回復を妨げない」サポート
            

うつ病の治療において、周囲の役割は「治すこと」ではなく、「安心して休める環境を死守すること」にあります。

                   

接し方の黄金律:否定せず、励まさず          

やってはいけない対応望ましい対応
「がんばれ」「もっとつらい人はいる」などの励まし「今はそれだけつらいんだね」「よく話してくれたね」などの共感
「なぜそうなったの?」などの原因追及「理由はわからなくても今苦しいのは事実だね」などの受容
「運動すれば治るよ」などの安易な助言「何か手伝えることがあったら教えて」などの待機

                        

                         

<環境調整のステップ>

            

①情報の遮断: 仕事のメールやSNSなど、焦燥感を煽るものから距離を置かせる。

②決断の先送り: 「退職」や「離婚」など、人生の重大な決断は判断力が低下している今はさせないよう促す。

③専門家への橋渡し: 家族だけで抱え込まず、精神保健福祉センターや保健所、専門医などのリソースを活用する。

                          

                          

                      

4,家族・支援者の「共倒れ」を防ぐために

                          
うつ病の回復には時間がかかります。支援する側が「自分がなんとかしなければ」と背負いすぎると、支援者自身が二次的なメンタル不調に陥るリスクがあります。                         

                            
「病気そのもの」と「その人自身」を切り離して考えましょう。 

                     

今のネガティブな言動は「病気が言わせているもの」です。

             

適切な治療(薬物療法、精神療法、そして休養)を継続すれば、霧が晴れるように本来の姿を取り戻す日が必ず来ます。

                     
そのためにも、まずは周囲が冷静に、過干渉せず、温かく見守る「安全地帯」であってください。

                  

                  

「ただの疲れ」と見過ごさないために: うつ病のサインと自己対話の技術

                     


「最近、なんとなく体が重い」「以前楽しめていたことが、色褪せて見える」――。このような感覚を、単なる疲労や加齢のせいにして片付けてはいませんか?               

                


うつ病は、本人が自覚した時にはすでに「心のエネルギー」が枯渇しかけていることも少なくありません。

                        

特に責任感の強い方ほど、無意識に不調を「我慢」という蓋で閉じ込めてしまう傾向があります。

                 

専門医の視点から、早期に自分自身の変調に気づき、健やかな日常を取り戻すための指針を解説します。

                      

                  

                    

1,なぜ「心の不調」は自分では気づきにくいのか

                          
うつ病の初期段階で自覚が難しいのには、医学的な理由があります。

                   
「まだ頑張れる」という防衛本能
                                

日本人の約16人に1人が生涯に一度は経験するとされるうつ病ですが、実際に受診に至るのはそのうちのわずか4分の1程度です。

「自分がうつになるはずがない」「周囲に弱みを見せられない」といった真面目な性格が、客観的な自己観察を妨げてしまうのです。

                   

                 

見逃してはいけない、心身からの「小さなサイン」

               
                    

以下の状態が「2週間以上、ほぼ毎日、1日の大半」続いており、生活や仕事に支障が出ている場合は、うつ病(大うつ病性障害)の可能性があります。

              

                            

① 感情・気分の変化(中核症状)

抑うつ気分: 理由のない強い悲しみ、空虚感、または絶望感が続く。

アンヘドニア(興味・喜びの喪失): 趣味や仕事など、あらゆる活動への関心が著しく低下する。

                  

② 思考・認知機能の変化

制止(思考の遅滞): 頭の回転が遅くなり、会話のテンポや決断力が低下する。

集中力の減退: 本や新聞の文章が頭に入らない、仕事のミスが増える。

微小妄想・自責感: 自分が無価値だと感じ、過剰あるいは不適切に自分を責める。

                  

③ 身体・生理面の変化

睡眠障害: 入眠困難、中途覚醒、特にうつ病に特徴的な「早朝覚醒」や、逆に「過眠」に陥る。

食欲・体重の変動: 食欲不振と体重減少、または非定型症状としての食欲亢進と体重増加。

易疲労性: 激しい運動をしていないのに、常に体が重く、鉛のようにだるい。

自律神経症状: 原因不明の頭痛、動悸、肩こり、胃腸障害などの不定愁訴が続く。

                           

④ 行動・意欲の変化

精神運動の制止・焦燥: 動作や話し方が目に見えて遅くなる、または逆に焦りから落ち着きなく動き回る。

社会的ひきこもり: 人と会うのが億劫になり、連絡を無視したり外出を避けたりする。

日内変動: 症状が朝方に最も重く、夕方から夜にかけて少し軽くなる。

                         

            

※「仮面うつ病」という落とし穴        
精神的な落ち込みよりも先に、頭痛、肩こり、胃腸の不快感、全身の倦怠感といった「身体症状」が前面に出ることがあります。これを「仮面うつ病」と呼びます。内科を受診しても「異常なし」と言われる場合、それは体が発している心の悲鳴かもしれません。

                    

          

2,専門家が勧める「自己対話」と客観視の方法
                       

病院へ行くべきか迷った際、以下のステップで自分自身をスキャンしてみてください。

      

以下は、CES-Dといううつ病自己評価尺度の全20項目の質問です。 

過去1週間における症状の頻度を「ない、または1日未満」「1〜2日」「3〜4日」「5日以上」の4択で評価する形式です。
                            

▢普段は何でもないことで困る(イライラする)

▢家族や友人に助けてもらっても、ゆううつな気分を払いのけることができない

▢気分が落ち込んで(ブルーになって)ゆううつだ

▢自分は他の人よりも劣っている(ダメな人間だ)と思う

▢泣くことがある

▢悲しいと感じる

▢自分が生きているのが空しい(寂しい)と感じる

▢ 食べたくない、食欲が落ちた

▢何をするのも面倒(おっくう)だと感じる

▢物事に集中することができない

▢何をするにも普段以上の努力(エネルギー)が必要だと感じる

▢ぐっすり眠れない(睡眠が妨げられる)

▢あまりしゃべらない、いつもより口数が少ない

▢これ以上、前に進めない(やっていけない)と感じる

▢自分は他の人と同じくらい良い人間(価値がある人間)だと思えない

▢将来に対して希望を持てない

▢毎日が楽しい、幸福だと感じれない

▢人生(生活)を楽しめない

▢周りの人が自分に対して不親切だ(冷たい)と感じる

▢人々が自分を嫌っているように感じる

             

該当数が多いからといって即「病気」ではありませんが、週のうち多くの日に多くの項目が当てはまる場合は受診を考慮しましょう。

                  

                   

3,ストレスの「棚卸し」

                      
現在のストレス要因を紙に書き出してみましょう。

             

引越しや昇進、結婚といった「おめでたい出来事」も、脳にとっては大きな環境変化というストレスになります。書き出すことで、漠然とした不安を「対象」として認識できるようになります。

            

                           

4,回復への三段構え:休養・薬物・精神療法

                        
もし診断を受けたとしても、それは人生の停滞ではなく「リセット」の機会です。

 

①環境調整と休養: 何よりもまず、エネルギーを消費する場所(仕事や家事など)から物理的・心理的な距離を置くことが最優先です。

                  

②薬物療法: セロトニンなどの神経伝達物質のバランスを整えます。漢方薬を併用し、自律神経や体質的なアプローチを組み合わせることも有効です。

               

③精神療法(認知行動療法など): 回復期には、ストレスを受け流す「心のしなやかさ」を取り戻すためのトレーニングを行います。認知行動療法やマインドフルネスなども、再発防止に寄与します。

                     

                         

                                 

                         

                            
うつ病は、決して根性論で解決できるものではありません。

            

脳と体が「今は休む時だ」とブレーキをかけている状態です。

                     

もし身近な人から「最近、様子が違うよ」と言われたなら、それはあなた以上に、あなたの心がサインを出している証拠です。

              

早めに専門医へ相談することは、自分自身を大切にするための「勇気ある決断」です。

               

一人で抱え込まず、私たち専門家をあなたの健やかさを取り戻すための伴走者として活用してください。

                      

                          

                   

適応反応症(適応障害)の症状は? うつ病とどう違うのでしょうか?

                                

適応障害は、新しい環境や特定のストレス要因に対して、心身のバランスが崩れてしまう状態を指します。

                       

一見すると「うつ病」と似ていますが、そのメカニズムや対処法には明確な違いがあります。

 

                                   

                             
自身の状態を正しく理解し、適切なケアを行うためのポイントを、専門的な視点からまとめました。

                                 

                         
1.適応障害のサイン:代表的な症状と特徴

                                           
適応障害の症状は、大きく分けて「感情面」「身体面」「行動面」の3つの領域に現れます。

                                         
• 情緒面の不調: 気分のひどい落ち込み、強い不安、イライラ、あるいは突然涙が出てくるといった情緒の不安定さが目立ちます。

                                               
• 身体の反応: 頭痛や腹痛、めまい、動悸、過呼吸など、自律神経の乱れからくる症状が頻発します。また、全身の倦怠感や不眠を訴える方も少なくありません。                                       

                                         
• 機能の低下: 集中力や判断力が低下し、仕事でのミスが増えたり、思考が停止したように感じたりします。「頭にモヤがかかった状態(ブレインフォグ)」になることもあり、これが原因で自己肯定感を損なう悪循環に陥りやすいのが特徴です。

                                  

                                     
2.症状を誘発する「引き金」と背景

                                  
発症の背景には、外部からの「ストレス要因」と、個人の「ストレス耐性」のバランスが関わっています。

                                   
• 環境の劇的な変化: 転職、昇進、異動、あるいは引っ越しや結婚・出産といったライフイベントも、心身には大きな負荷となります。

                                
• 対人関係の摩擦: パワハラ、いじめ、家族やパートナーとの不和など、持続的な対人ストレスは大きな原因です。

                                  
• 役割への過度な期待: 「新しいポジションで期待に応えなければ」というプレッシャーが、完璧主義な方や責任感の強い方の負担になるケースが多く見られます。

                                         
• 個人の特性: 本来の気質や、これまでのストレス対処経験の少なさが影響することもあります。これは「性格が悪い」ということではなく、単に現在の環境との相性が一時的に悪化している状態です。

                                     

                           

                          

                                
3.適応障害とうつ病:その決定的な違い

                                  
「適応障害」と「うつ病」は混同されがちですが、治療方針を立てる上でその違いを知ることは非常に重要です。

                                           

特徴適応反応症(適応障害)うつ病
原因の明確さストレス源がはっきりしている原因が不明確な場合も多い
環境の変化への反応ストレス源から離れると改善する環境を変えても症状が続く
発症時期ストレスを受けてから3カ月以内徐々に進行する場合も多い
持続期間ストレスが解消されれば6か月以内に回復6か月以上続くことも珍しくない

                        

適応障害を放置し、慢性的なストレスにさらされ続けると、一部の方は「うつ病」へと移行すると言われています。

                                 

適応障害は、いわば「心が限界を知らせるアラーム」です。

                    

この段階で適切に対処することが、重症化を防ぐ鍵となります。

                                 

                           

                               

         

4.回復のための具体的なアプローチ

                                
適応障害の改善には、「何もしない時間を作る」ことと「環境を整える」ことの両輪が必要です。

                                     

①「戦略的な休息」をとる

                                          
まずは、ストレス源から物理的・精神的な距離を置くことが最優先です。

                                     

必要に応じて診断書を提出し、休職や休学という形で「脳と体を完全に休ませる期間」を確保しましょう。

                        

                                     

②環境を再構築する

                        
休養してエネルギーが回復してきたら、同じ轍を踏まないよう調整を行います。部署異動の検討や、業務量の削減、家庭内でのサポート体制の確立など、周囲と連携して負荷を減らす工夫をします。

                                 

                                 

③ストレス耐性をアップデートする

                                      
カウンセリングや認知行動療法を通じて、自身の「考え方のクセ」を見直し、新しいストレス対処法(コーピング)を身につけます。

             

瞑想やヨガ、軽い運動、十分な睡眠、栄養バランスの取れた食事といった基本的な生活習慣の改善も、心身の回復力を高めます。

                        

                           

④専門的なサポートの活用

                                      
精神科・心療内科では、症状に応じて一時的に抗不安薬や抗うつ薬、漢方薬を使用し、心身の過度な緊張を緩和します。

                                

医師やカウンセラーとの対話は、混乱した現状を客観的に整理する大きな助けとなります。

                             

                                   

                                    

                
まとめ

                               

                               
適応障害は、決して「甘え」や「弱さ」の問題ではありません。

                                      

適切な距離感と十分な休息、そして専門的なケアがあれば、多くの場合、早期に改善を目指せる疾患です。

                                           
もし「以前の自分と違う」と感じたら、一人で抱え込まずに、まずは専門家へ相談してください。

                                  

自分を大切にするための「勇気ある一歩」が、健やかな日常への最短距離となります。

                                            

                                       

うつ病/うつ状態のときの大きな決断について

 

 うつ病の治療を行っていると、仕事のことは絶対に避けて通れません。

 今回は、退職や転職などの決断について大事なことをお話しします。

 

 それは、「うつ状態のときには重大な決断をしない」ということです。

 なぜかというと、うつ状態のときは、しっかり頭が回らず、冷静に物事を考えられないだけでなく、うつ症状によって悲観的な観測ばかりをしてしまうためです。そのため、良い判断はできません。

 退職だけではありません。離婚や大きな取引ついても同じです。

 これらの不可逆的(元に戻すことができない)な重大な決断は、頭がよく回るようになってから、冷静に物事を考えて行うのがよいと思います。

 そのため、診察時にうつ病の方が「もう体が動かなくて会社に行けないから退職しようと思っている」「とにかく仕事から離れたいから退職届を出すつもりです」とおっしゃったとしても、「まずは休職して、よくなってから冷静に考えてください」と説得します。

 うつ病の最中に退職してしまって、短期的には仕事の重圧がなくなって気持ちは楽になりますが、うつ病がよくなって本調子になってから後悔してしまうこともあります。仕事だけでなく、結婚や大きな取引も同様です。

 

 一方で、決断を延期するように促さない場合もあります。

 うつ症状が軽度で判断力がある方が「ここの会社はどうしても自分には合わないから転職をしようと思っている」とおっしゃったなら、多くの場合は反対しません。

 明らかに衝動的な決定だったり、明らかに良くない決断である場合には「もう一週間だけ考えましょう」とアドバイスしたり、「もう少し時間をかけて一緒に考えていきましょう」と解決策を一緒に考えていく姿勢をとっていきます。

 

 不用意に重大な決断をしてしまったことで、後々になって、心にも、社会的にも、大きな痛手を負ってしまうことがあります。

 人の人生というのは、節目節目で、何かを選んで、場合によっては何かを捨てて、形づくられていきます。

 うつ病になったということは、無理が生じてきた結果であり、人生の一つの節目になることが多くあります。

 だからこそ、大きな決断は慎重にしていくべきですし、良い決断ができる状態で、しかるべき時期にしっかり行ってください。

 できるかぎり不利益がないだけでなく、将来に活きる決断ができることを願っていますし、主治医としてもできるかぎり助けになれればと思っています。

 

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うつ病がちゃんとよくなっているのかがわかる指標ってあるんですか?

 今回は、うつ病がちゃんとよくなっているかがわかる指標についてです。

 うつ病にはHAM-D、MADRSなどの評価尺度がいくつかありますが、ここでは専門的なものではなく、うつ状態が改善していくとともに患者様自身が実感できるものいくつかを取り上げたいと思います。

 私が外来診療を行うなかでチェックしていく点は数多くありますが、そのなかでとくに代表的な3つについて触れていきます。

 治療経過中にいろいろな変化がでてきますが、そのなかでも実感しやすいものを一つ目に取り上げます。それは、「笑える」ということです。「笑う」というのはごく当たり前の行為ですが、この当然の行為がうつ状態ではできません。そのうえ、できてなかったことに長らく気が付いていないことがほとんどです。

 うつ病が少しよくなってきたあたりで、「お笑い番組を見て久しぶりに笑いました。笑ってから、ずっと笑えてなかったことに気が付きました。半年ぶりくらいは笑ってなかったのではないでしょうか」とおっしゃります。

 この「笑えた」という体験はご本人にとって、かなり実感しやすい指標で、明るい兆しになります。患者様にもちゃんと治療の効果がでてきることを身をもって体感してもらい、安心して引き続き治療を続けてもらうようにお伝えしていきます。

 次の指標も、笑えるようになるのと同じように比較的実感しやすいものです。

 新聞などの活字の文章を読んで、ちゃんと頭に入ってくるということです。これが結構重要で、うつ状態が改善して、頭がちゃんと回るようになってきた証拠です。とくに、元々新聞を読む日課があった方にはとても実感しやすく、「新聞などの活字の文章を読んで、頭に入ってくる」とおっしゃります。うつ状態が改善して、頭がちゃんと回るようになってきた証拠です。

 「ずっと眺めていただけだったけど、最近は新聞の記事がちゃんと頭に入るようになってきた」というふうによくなってくると、ご自宅で規則正しい生活をしてもらうだけなく、徐々に図書館などへの外出を促していく段階になってきます。この「文章を読んで頭に入る」というのは、治療者としてどの段階にあるのかを確認するうえでとても重要な通過点です。

 最後は、復職に向けての大事な指標です。うつ病は症状がよくなってからも、しばらく社会生活を休んでいた影響もあり、リハビリのような慣らし期間が必要になります。社会生活を営むという行為は脳も身体もずっと走り続けているようなものなので、しばらく社会生活を休んだあとに突然同じようなペースで走ろうと思っても当然そのようにはできません。

 そのため、徐々に脳も身体も慣らし運転をしながら、走りの調子を確認していくことが必要になります。週5日間仕事していたときのような生活を試験的に送ってみるのです。具体的には、通いやすい図書館に9時に行き、17時まで勉強や作業などをしてみます(もちろん昼休みはとります)。最初のうちは午前中で疲れて昼頃に帰っていても、徐々に慣れてくると9~17時で勉強や作業ができるようになってきます。

 このように、一日長時間脳を働かせても疲れなくなってきて、ご本人に「復職は大丈夫そう」という感覚がでてくると、主治医としては復職を視野に入れ、会社の復職基準などを確認しながら、就労可能の判断を行っていくことになります。

 今回は、うつ病の治療過程で、私が必ず確認する3つの指標をごく簡単ですがご紹介しました。 ちゃんと治療を行えば、笑えるようになり、頭が回るようになり、きっと仕事も以前のようにできるようになります。 今回の3つの指標によって、ご自身の状態がよくなっていることを捉える助けになればと思っております。


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同僚にADHDではないかと言われたけど、、、

「ここ最近、ケアレスミスが増えているから、ADHDではないか」と上司や同僚に言われたとおっしゃって受診される方が多くおられます。

 社会人になって数年程の方の場合には実際にADHDであることが多いですが、長らく同じ会社で働いておられる方の場合では話が変わってきます。

 というのも、ADHDの症状は基本的には幼少期からずっと続いているものだからです。学生時代に「落ち着きがなく、じっとしていられない」「学校の提出物を忘れることが多かった」「朝の準備に手間取り、遅刻してしまうことが多かった」などの症状があったのであれば、大人になってからもADHDの症状が残存している可能性は十分あります。

 しかし、そのような過去のエピソードがなく、そのうえ社会人になって長年経っている方で、同僚に「最近不注意なミスが多いからADHDではないか」と言われた、あるいはご自身で「最近ケアレスミスが増えたからADHDではないか」と疑われた場合は、ADHDでないかもしれません。

 不注意をきたす疾患はいろいろありますが、このようなケースで一番多いのは、うつ病です。うつ病でも、集中力や注意力低下がすることで、不注意症状がよく出てくるからです。ほかにも、認知症などでも不注意症状はでてきますので注意は必要ですが、ご高齢でなく、働く世代であれば、当然うつ病である可能性の方が高いです。

 不注意をきたす病気は、ADHDだけでなく、うつ病や認知症など他にもあることを今回はお書きしました。お困りの方の、受診の際の参考になればと嬉しいです。

 

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うつ病の方の復職について

 心療内科の外来を担当していると、当然うつ病で休職が必要になる方がおられます。休職に入り、治療をしっかり続けていくと、うつ状態は良くなってきますが、最後に難関があります。それが復職です。

 会社によって、復職の基準というのが違います。定時勤務からでないと復職できないところ、午前中のみの時短勤務から開始できるところ、3か月間ほどの社外リワークプログラムを満了してからでないと復職がかなわないところ。会社の方針によって、復職時のハードルは結構違います。産業医としてもうつ病の復職に関わることが多いのですが、最近よく感じるのは、昔のような窓際的なポストが今は少なくなり、ちゃんと働ける状態にあるのかを企業側がとても重要視するようになってきていることです。

 復職後3か月間ほどは猶予期間であり、リハビリ的な慣らし運転をしていく時期ですが、基本的にその期間を終了すると職場では周囲と同じように業務をこなしていかないといけなくなります。そのため、主治医としては、会社の復職時のハードルだけでなく、復職後3か月目以降を見越して、就労可能の判断をする時期を決定していかなければなりません。

 私は、いつも生活記録表という、毎日の活動が確認できるものを書いてきてもらいます。症状と生活をを把握しながら、徐々に家だけではなく、外で過ごす時間を増やしていってもらいます。そして、最終的に9時から17時まで図書館で、資格などの勉強ができるところまでに回復してくると、復職の場所や時期の調整を始めていきます。これで多くの方はうまくいくのですが、困難な場合も当然あります。そのような場合は、外部のリワーク施設と連携して、復職を目指していきます。

 皆不安を抱えながら復職をされていきます。しかし、復職まで十分な準備をし、復職後の猶予期間に十分な慣らし運転をしていけば、その不安は取り越し苦労だったことに気づきます。ちゃんと治療をし、しっかりと準備をすれば、もとのように働けるようになることが多いものです。今休職中の方は、定期的な通院治療のもとで、焦らずに社会生活のリハビリを着実に行っていきましょう。準備をしっかりすれば、不安だったものがちゃんと戻れるという確信に置き換わってくると思います。

 

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うつ病の方の不安について

 うつ病の方は、治療経過のなかでいくつもの不安を乗り越えていかねばなりません。休んだらどうなるのだろうか、休むことができるのか、ちゃんと治るのだろうか、ちゃんと復職できるかのだろうか、また再発するのではないだろうか、、、。

 うつ病は治る病気ですが、ちゃんと治療しないとよくなりませんし、治療を放棄するとこじらせて長引いてしまうこともしばしばあります。そのため、ちゃんと治療を続けてもらえるように、治療者として不安をしっかりケアすることがとても大切です。

 うつ病の経過中の不安は、大きく二つあります。一つ目は、うつ病の症状としての不安。もうひとつは、休職や復職、再発などの現実的な不安。実際に現れてくる不安は、どちらか一方というよりも治療の各段階で割合は異なれど両方が混在し、うつ病がよくなるにつれて徐々に後者のみになっていきます。

 症状としての不安については、客観的にできるだけ冷静に病気の症状だと理解できること、これがとても重要です。これを症状の外在化と言います。治療者としては、休養や薬物療法、心理療法などの治療によってうつ病の不安症状の波が静まってくるまで、なんとか症状を外在化して少しでも楽に受け止められるようにサポートしていき、ときには抗不安薬を併用したりします(この時期限定の抗不安薬の使用であれば依存になることはほとんどありません)。

 治療が進んでいくと、症状としての不安は目立たなくなってきますが、現実的な不安が置き換わるように出てきますので、差し引きの不安はさほど大きく減少しなかったりします。ここからは、しっかり今後の予想される経過を説明すること、実際に行動が拡大して良くなっていることを実感してもらうこと、本調子で働く姿を想像してもらうこと、などを心がけながら、できるだけ不安を解消できるように関わっていきます。

 心療内科や精神科に受診されることがありましたら、不安なことはしっかりおっしゃっていただくのがよいと思います。治療によって治さないといけない不安、説明を受けることでよくなる不安、各種制度によるサポートを知ることで解消される不安など、いろいろあります。一人で不安を抱え込んで、治療を放棄することはしないでください。

 

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