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コラム

「 社交不安症・社交不安障害(対人恐怖、社交恐怖、あがり症)」の記事一覧

抗うつ薬の中止後症状について

 昔は抗うつ薬というとうつ病の薬でしたが、最近では、うつ病だけでなく、不安障害全般(パニック障害、強迫性障害、PTSD、全般性不安障害など)、月経前不快気分障害(PMDD)などに使われるようになっています。

 抗うつ薬によって症状がよくなり、再発のリスクの高い期間を過ぎたら、環境的にも心理的にも落ち着いていれば減薬を勧めていきます。そして、減薬中に再発がなければ、最後に抗うつ薬を中止していきます。

 今日は、抗うつ薬を最終的に中止するときの注意点についてお話しします。

 基本的には抗うつ薬は依存性がなく中止できますが、それでも中止後症状という現象が起きることがあります。

 その中止後症状の多くは、薬を中止後5日以内に起こることがほとんどです。

 中止後症状には、さむけ、筋肉痛、発汗、頭痛、吐き気、眠れない、夢をみる、風邪のような症状、めまい、音に敏感になる、涙が出続ける、落ち着かない、イライラする、理由もなく不安になる、集中力がでない、などがあります。

 多くは軽い症状なので、様子をみるだけで徐々に落ち着いてきます。

 症状が再発したと、焦って、薬をすぐに再開する必要はありません。

 しかし、しばらく経っても落ち着かない場合には、中止後症状だけではなく、症状が再発していることもあるので注意が必要です。

 

 何度も中止に失敗している方の場合には、薬を半錠、1/4錠(場合によってはそれ以上の少量)と減らしていって中止していきます。

 半減期の長い抗うつ薬に切り替えてから、ゆっくり減薬して、中止していくという方法をとることもあります。

 

 薬は、正しい知識によって正しい用い方をしないと、うまく増量できず治療が成功しなかったり、薬がやめれなくなってしまいます。心配な場合には、主治医の先生に相談してみてください。

不安障害を漢方薬で診るということ

 心療内科や精神科のクリニックを受診すると、各不安障害の診断のもとSSRIなどの抗うつ薬あるいは安定剤の治療を提案されることが多いと思いますが、当院では症状の程度が軽い場合には、漢方治療と心理療法を提案することがあります。

 今回は不安障害の方の漢方治療の特徴についてお話します。

 漢方治療というのは「パニック障害なら○○湯。効果なければ○○湯」のような病名処方ではなく、漢方特有の診断法によって方剤を選んでいきます。その際には、症状とは一見関係のないような問診や身体診察が重要になります。

 不安障害などのこころの症状であっても、もちろん身体の診察が必要になります。身体の診察というのは望診や脈診、腹診、舌診などです。なかでも、不安障害の方の場合には腹診が参考になることが多くあります。

 腹診では、腹部の全体的の力の程度はどうか、胸脇苦満という肋骨弓に沿った腹壁の異常緊張があるのか、精神的緊張が非常に強い方に見られやすい腹直筋拘攣があるのか、 交感神経の昂りや精神的な興奮を反映する腹部の大動脈拍動があるかどうか、胃部振水音があるかどうか、など確認します。

 そして、問診や他の身体所見も総合的に考慮して、生薬単位で何が必要かを頭の中で整理して、取捨選択していきます。

 具体的には、柴胡による和解薬が必要か、竜骨、牡蛎のような重鎮安神薬を含む必要があるのか、竜眼肉、酸棗仁、遠志などの寧心安神薬が配されるべきか、芍薬、甘草などによる鎮痙作用が必要か、水に関連した病態で利水薬を入れておかなければならないか、半夏、茯苓などの痰に対する生薬が必要か、厚朴、陳皮、薄荷、蘇葉、香附子などの理気薬が必要か、瘀血に対する桃仁、牡丹皮、川芎、芍薬が必要か、黄芩 、黄連、黄柏、山梔子などの気分の清熱が必要か、地黄や赤芍、牡丹皮などで血熱を冷ます必要があるか、など。

 このようなことを考えながら、どの方剤の組み合わせがよいのかを検討していきます。そして、可能であれば生薬数の少ない方剤を選びます。これは、生薬数の少ない方剤の方が一般的に効果が早く、効果も実感しやすいからです。

 具体的な詳しい弁証については、今後のコラムで、具体的な方剤名をあげて、触れていければと思っております。

当院が実践していきたい医療のかたち

心の不調で来院される患者様に、当院が実践していきたい医療のかたちがあります。今回は、そのかたちを二つに分けてお話しします。

まず一つ目は、精神科医と漢方医として2つの視点から、治療を提案していくというものです。漢方薬で治すことができない精神疾患はもちろん多くありますが、一方で漢方薬で治すことできる心の症状というのも多くあります。また、向精神薬で通院中に漢方薬が得意とするちょっとした不調がでてくることもしばしばあります。精神科専門医・指導医として責務を果たしながらも、漢方薬で効果が期待できる病態であれば、漢方内科医の視点から新たな選択肢を提案していきたいと思っております。

二つ目は、安心して治療を受けていただくためにとても重要なことです。漢方薬と言っても副作用がないわけではありません。漢方薬をいくつも重複して使用したり、漫然と長期間服用したりすると、当然副作用は出やすくなります。また、向精神薬についても、もちろん副作用はあります。治療開始時に作用の出る前兆としてでてくる一時的なものから、すぐに中止をしなければ危険なものまでいろいろあります。漢方薬と向精神薬のメリットを比べるだけでなく、しっかりと双方のデメリットも比べ、それぞれのリスクをお伝えしたうえで治療を選んでいっていただきたくのが本来あるべき形です。つまり、説明もなく出された薬を服用するのではなく、インフォームドコンセントをしっかり受けていただいたうえで安心して治療を受けていただければと考えております。

以上のように、精神科医と漢方内科医の二つの視点から考えうる最善の選択肢を提案し、それぞれのメリット・デメリットをしっかり説明したうえで、安心して治療を受けていただくという、当院の考える理想の医療のかたちを実践していくつもりです。どうかよろしくお願いいたします。