ローディング
LINE
コラム

「 月経前症候群(PMS)/ 月経前不快気分障害(PMDD)」の記事一覧

PMS/PMDDについて③

次に、薬物療法についてです。

症状が中等症以上の場合には、薬物療法が必要になることが多くあります。

① 低用量ピル(OC-LEP)

低用量ピルによって排卵が起こらないようにすることで、エストロゲンとプロゲステロンの変動がなくなり、月経前の不快な症状が改善します。 嘔気や倦怠感、体重増加などの副作用が生じることがあります。

② 抗うつ薬(SSRI)

精神症状が強い場合には、抗うつ薬の中でもSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を使用します。SSRIは脳内のセロトニンの濃度を高める作用があるため、卵巣ホルモンの変動によって生じる、気分の落ち込みやイライラ感などを改善が期待できます。また、プロゲステロンの合成体の活性化を高める働きもあるので、抗不安作用もあります。

SSRIは投与初期に嘔気が出やすいですが、それ以外の副作用はそれほどなく、依存性はないため、比較的安心して服用ができます。

私の経験的でいうと、SSRIの用量は、ほかの疾患(うつ病、強迫性障害、パニック障害など)よりも低用量で効果がみられることが多いという印象です。

また、排卵日頃から月経までの2週間だけSSRIを服用し、うまくいくケースもあります。毎日服用が心配な方や症状が比較的軽い場合には、月経前だけの服用を勧めたりします。


③ 漢方薬 

低用量ピルやSSRIが副作用で飲めない、SSRIに抵抗があって飲みたくない、精神症状がそこまで重症でない、などの場合には、漢方薬を使います。

精神症状だけでなく、月経関連の身体症状が強い場合にも、漢方を提案します。SSRIと漢方薬を併用するケースも結構あります。

PMDDでよく使う漢方薬には、加味帰脾湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、女神散、黄連解毒湯、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、四物湯、九味檳榔湯、通導散、芎帰調血飲第一加減等があります。一剤で治療することありますが、合方と言って、複数の漢方薬を重ねて使うことも多くあります。

主となる訴えだけでなく、周辺の症状をお聞きして、ある程度の方剤を絞りこんでから、腹診や脈診、ときに舌診を行い、方剤を決定します。

事前の予想通りの漢方的身体所見が得られれば、迷うことなく漢方薬を選択できますが、そういったケースばかりでもないため、問診と、身体所見に解離がある場合には、どちらを優先するかは、個別で判断していきます。

 

関連記事:PMS/PMDDについて①PMS/PMDDについて②PMSとPMDDの治療について

PMS/PMDDについて②

続いて、PMS/PMDDの非薬物療法についてです。

 PMSとPMDDの治療にあたって、まず本当に月経の周期に一致しているのかを確認する必要があります。

 できれば症状の記録をつけていただき、そのパターンを把握します。

 そうして、本当に月経前の症状だと確認できたら、治療を行っていきます。

 軽症から中等症の程度までの場合は、生活改善指導による効果が期待できます。

 夜更かしや偏った食事などの生活習慣を続けていると、PMSやPMDDの症状が悪化することもありますので、 規則正しい睡眠、バランスの良い食事、適度な運動を心がけることが必要です。

 飲酒、喫煙、カフェイン、精製糖を制限することが有効なこともあります。

 月経周期が規則正しい場合には、月経前を穏やかに過ごすために、前もって月経前付近に予定を入れないようにしてみるのもよいでしょう。

 また、ストレスが多い環境にいる場合には、日ごろから辛くて苦しい感情を言葉にして話すこともとても大事です。

 心理社会的ストレスによって症状が悪化することがしばしばあるので、抱えている心理的な悩みを整理するために、心理療法(カウンセリング)の実施が有効なこともあります。

 月経前の不調ある方は、生活を振り返ってみて、改善できることを少しずつからでもやってみてください。

 

関連記事:PMS/PMDDについて①PMS/PMDDについて③PMSとPMDDの治療について

PMS/PMDDについて①

 当院では漢方治療を積極的に行っているため、月経前の不調で困ってらっしゃる方が多くお見えになります。

 そのため、PMS(月経前症候群)とPMDD(月経前不快気分障害)について説明していきたいと思います。

 PMS/PMDDの症状出現の明確なメカニズムはわかっていませんが、卵巣ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の変動が関与していると言われています。

 排卵から月経発来までの黄体期の期間に、卵巣ホルモンは多く分泌されますが、黄体期の後半になってくると卵巣ホルモンは急激に減少します。それによって、精神症状が出現することがわかってきています。

 エストロゲンは、脳内のセロトニン受容体の数を増加させたり、セロトニン活性を調節します。セロトニンは気分の調節に関与し、気持ちを安定させる作用があるため、エストロゲンが黄体後期に急激に減少することによって、情緒や気分に影響を及ぼすと言われています。

 また、プロゲステロンの代謝産物も大きく関わっていると指摘されています。プロゲステロンの代謝産物は、脳内においてGABAA受容体に結合して、抗不安作用を示します。プロゲステロンの黄体期後期の急激な減少によって、この代謝産物も同じく急激に低下するため、抗不安作用が減弱し、強い不安感などの情緒面の不調を引き起こすと言われています。

 加えて、心理社会的なストレスや生活習慣もホルモンの乱れに関与すると言われています。

 PMSとPMDDによる精神症状が起こるのは、エストロゲンと、プロゲステロンの代謝産物の変動によるわけですが、ストレスや生活習慣によってホルモンバランスが乱れて、月経前の症状が悪化することもありますので、注意が必要です。

 

関連記事:PMS/PMDDについて②PMS/PMDDについて③PMSとPMDDの治療について

PMSとPMDDの治療について

 

 月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)とは、月経前に、精神的あるいは身体的な不快な症状が出現し、月経開始とともに軽快あるいは消失するものをもののことを言います。

 PMSの症状には、イライラ、憂うつ、不安、集中力低下、眠気、不眠、のぼせ、ほてり、食欲低下、食欲亢進、めまい、倦怠感、腹痛、便秘、下痢、頭痛、腰痛、むくみ、乳房の張りなどがあります。

 そして、PMSのなかでも、とくに精神症状(憂うつやイライラなど)が強いものを、月経前不快気分障害(premenstrual dyspholic disorder : PMDD)と呼びます。

 

 症状の程度の差のようにも見えるPMSとPMDDですが、治療はどのように違うのでしょうか。

 まずは、PMSです。

 軽いPMSには、規則正しい生活と、気分転換やリラックス法などによって、症状と上手に付き合っていけることということになりますが、中等度以上のPMSの場合には漢方薬やホルモン療法が用いられます。


 ホルモン療法は婦人科の領域なので、ここではあまり触れませんが、排卵が起こって女性ホルモンが大きく変動することが原因なので、排卵を止めるためのホルモン治療ということになります。

  それに対して、漢方薬は月経に関するホルモンの変動に直接作用するわけではありませんが、月経前の症状を緩和するのには有効です。

 たとえば、肩が凝りやすく、頭痛がして、足が冷えて、顔がのぼせる、経血に塊が混ざりやすく、そのような身体所見で瘀血がある場合には、瘀血をターゲットとする桂枝茯苓丸を使います。元々雨の日の前の不調があったり、月経前に浮腫むことが多く、全体にやや冷えがあり、月経痛なども伴う方には、補血と利水を同時に行う当帰芍薬散を使いますし、火照りがあって、冷えのぼせもあり、イライラが強く、瘀血と胸脇苦満を認める場合には、もっと広い作用点を多い加味逍遙散を選びます。瘀血は目立たなくて火照りやイライラが強い場合には女神散、瘀血が著名でのぼせや便秘が強い場合には桃核承気湯など。他にも桂枝加竜骨牡蛎湯や柴胡加竜骨牡蛎湯、九味檳榔湯、加味帰脾湯を使用したり、併用することもあります。

 

 では、PMDDについてはどうなのでしょうか。

 PMDDのように精神症状が強い場合でも、PMSと同様に漢方薬やホルモン療法を行うことはあります。

 当院ではホルモン療法は行えないので、漢方薬で治療をするわけですが、治療で劇的によくならなかったとしても、「生理前のイライラが少し軽くなって、子供や夫にイライラをぶつけずにすむようになって、気持ち的に楽になった」「症状はちょっと良くなっただけだけど、落ち込みをコントロールできるようになったから、漢方薬で様子をみます」と、漢方薬は有効であったりします。

 しかし、PMDDほど精神症状が強い場合、私の経験的には、漢方薬では改善が難しいことが半分かそれ以上あると感じています。その場合には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という薬を用います。

 このSSRIはうつ病でも用いられますが、うつ病で用いるよりも少ない用量でも十分効果があります。また、少量のSSRIによって症状がほとんど消失する方もおられますが、多くの方は気分の落ち込みやイライラが半分程度に軽くなった時点で「かなり楽になったからこれ以上は増量しなくてもいいです」「落ち込みやイライラはあるけれども、これくらい楽になれば全然問題です」というようにおっしゃる方が多くおられます。

  産後からPMDDが始まったという方も多くおられます。とくに授乳中の方はお薬の心配があると思いますが、授乳中に安心して使えるSSRIもありますので、治療は無理だとあきらめないでください。

 今日は、PMSとPMDDの治療について触れました。

 PMSもPMDDも、その症状自体よりも、その症状に振り回されて取った行動の方がよっぽど辛く、後悔してしまうものです。症状に振り回されて、悪循環に入っていくようであれば、早めにご相談ください。

   

 関連記事:PMS/PMDDについて①PMS/PMDDについて②PMS/PMDDについて③