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なぜ、精神科・心療内科で血液検査が必要なの?

                    

精神科・心療内科)の門を叩いた際、「まずは血液検査をしましょう」と言われて驚かれた経験はありませんか?

            

「心の相談に来たのに、なぜ注射?」と疑問に思うのは当然の反応です。
               

しかし、精神科医療において血液検査は、単なる付け足しの検査ではなく、「心の診断を確定させるための、最も重要な客観的データ」の一つです。
                                 

                

心身の両面から健康を見つめる専門医の視点で、メンタルクリニックにおける血液検査の真意と、知っておくべきポイントを解説します。

                  

                        

                          

1,なぜ「心」の診察で「血」を診るのか?

                       

         
精神疾患の診断は、医師との対話(問診)が基本ですが、それだけでは「見落とし」が生じるリスクがあります。

血液検査の最大の目的は、「精神症状を模倣する身体疾患」をルールアウト(除外)することにあります。
            

           

        

<精神症状と見紛う「体の病気」>


代表的な例として、以下のような身体疾患が挙げられます。これらは、一見すると「うつ病」や「パニック障害」と区別がつかない症状を引き起こします。

                

身体の異常現れうる精神症状
甲状腺機能低下症(橋本病など)気分の落ち込み、意欲の低下、思考の遅滞、記憶力の低下、過眠。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)イライラ、焦燥感、落ち着きのなさ、不安、不眠。
高カルシウム血症(副甲状腺機能亢進症など)不安、抑うつ、感情の不安定、重度になると幻覚や妄想。
重度の貧血(鉄欠乏性貧血)倦怠感、集中力低下、息切れ、寝つきの悪さ、足のムズムズ、氷食。
ビタミンB1欠乏症(ウェルニッケ脳症)健忘(物忘れ)、意識障害、つじつまの合わない話をする(作為症様)。
ビタミンB12・葉酸欠乏症頑固な抑うつ気分、イライラ、被害妄想、認知機能の低下。
全身性エリテマトーデス(SLE)「中枢神経ループス(CNS-SLE)」と呼ばれ、うつ状態、不安、幻覚・妄想、急性錯乱など多彩。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)激しい日中の眠気、集中力の低下、意欲減退、気分の落ち込み。多血から見つかることも多い。

                           

                             

もし、原因が甲状腺疾患にあるのに抗うつ薬だけを服用しても、根本的な解決には至りません。血液検査は、「正しい原因に基づいた治療」への最短ルートを確保するために行われます。

                                    

                    

                          

                            

2,安全な薬物療法のための「スクリーニング」

              
もう一つの重要な目的は、お薬を安全に、かつ効果的に使い続けるための土台作りです。

              
• 臓器機能の確認: 抗うつ薬や睡眠薬の多くは肝臓や腎臓で代謝されます。あらかじめ肝機能や腎機能を確認しておくことで、お一人おひとりの体質に合わせた最適な処方設計が可能になります。

               
• 血中濃度の測定(TDM): 特定のお薬(リチウムや一部の抗てんかん薬など)を使用する場合、血液中にお薬がどれくらい残っているかを測定します。これは効果を最大化し、副作用を最小限に抑えるために必要です。         

                   
• 代謝への影響チェック: 薬剤によっては血糖値や中性脂肪に影響を与えるものがあります。定期的な検査は、長期的な健康管理の一環でもあります。

            

                             

                    

              

3,「栄養・ホルモン・漢方」の視点から

                 
東洋医学(漢方)や栄養療法の知見を併せ持つ専門医としては、一般的な数値の範囲内であっても、その「質」に注目します。

                      
• 潜在的な栄養不足: 基準値内であっても、フェリチン(貯蔵鉄)が極端に低い場合、女性の不調やパニック症状に関連することがあります。

              
• 炎症反応: 近年の研究では、体内の慢性的な微細炎症(CRP値などで推測)が、うつ症状と深く関わっている可能性が示唆されています。

              
血液検査は、あなたの体の「現在の資源(エネルギー)」がどれくらい残っているかを可視化するツールなのです。

                                     

                          

                 

                            

4,受診の流れと費用:実務的なアドバイス

                
・検査のタイミングと結果       
通常は初診時、あるいは治療方針を決定する段階で行われます。結果が出るまでには約1週間程度かかるのが一般的です。緊急を要する異常が見つかった場合は、クリニックから早急に連絡が入るはずです。


・コストと公的支援
•費用: 健康保険適用の3割負担で、初診料を含めて5,000円〜6,000円程度が目安です。
•自立支援医療: 継続的な通院が必要な場合、この制度を利用することで窓口負担を1割に軽減できる可能性があります。費用面での不安がある方は、遠慮なく受付や医師にご相談ください。

                 

             

            

              

5,検査を受ける際の注意点

             

①空腹時の指定: 血糖値や中性脂肪を正確に測るため、可能であれば食後数時間を空けての採血が望ましいですが、初診時は無理のない範囲で構いません。

②過去のデータ: 直近(半年以内)の健康診断結果があれば、必ず持参しましょう。重複する検査を省くことができ、身体状態の推移を把握する貴重な資料になります。

③採血への不安: 採血が苦手な方、迷走神経反射(立ちくらみ等)を起こしやすい方は事前にお申し出ください。横になった状態での採血など、最大限の配慮をいたします。

                 

                     


数値に一喜一憂する必要はありません。

             

その結果を医師と共に読み解き、心と体の両面からバランスを整えていくこと。

                 

それが、健やかな日常を取り戻すための最も賢明なアプローチなのです。