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コラム

不安障害を漢方薬で診るということ

 心療内科や精神科のクリニックを受診すると、各不安障害の診断のもとSSRIなどの抗うつ薬あるいは安定剤の治療を提案されることが多いと思いますが、当院では症状の程度が軽い場合には、漢方治療と心理療法を提案することがあります。

 今回は不安障害の方の漢方治療の特徴についてお話します。

 漢方治療というのは「パニック障害なら○○湯。効果なければ○○湯」のような病名処方ではなく、漢方特有の診断法によって方剤を選んでいきます。その際には、症状とは一見関係のないような問診や身体診察が重要になります。

 不安障害などのこころの症状であっても、もちろん身体の診察が必要になります。身体の診察というのは望診や脈診、腹診、舌診などです。なかでも、不安障害の方の場合には腹診が参考になることが多くあります。

 腹診では、腹部の全体的の力の程度はどうか、胸脇苦満という肋骨弓に沿った腹壁の異常緊張があるのか、精神的緊張が非常に強い方に見られやすい腹直筋拘攣があるのか、 交感神経の昂りや精神的な興奮を反映する腹部の大動脈拍動があるかどうか、胃部振水音があるかどうか、など確認します。

 そして、問診や他の身体所見も総合的に考慮して、生薬単位で何が必要かを頭の中で整理して、取捨選択していきます。

 具体的には、柴胡による和解薬が必要か、竜骨、牡蛎のような重鎮安神薬を含む必要があるのか、竜眼肉、酸棗仁、遠志などの寧心安神薬が配されるべきか、芍薬、甘草などによる鎮痙作用が必要か、水に関連した病態で利水薬を入れておかなければならないか、半夏、茯苓などの痰に対する生薬が必要か、厚朴、陳皮、薄荷、蘇葉、香附子などの理気薬が必要か、瘀血に対する桃仁、牡丹皮、川芎、芍薬が必要か、黄芩 、黄連、黄柏、山梔子などの気分の清熱が必要か、地黄や赤芍、牡丹皮などで血熱を冷ます必要があるか、など。

 このようなことを考えながら、どの方剤の組み合わせがよいのかを検討していきます。そして、可能であれば生薬数の少ない方剤を選びます。これは、生薬数の少ない方剤の方が一般的に効果が早く、効果も実感しやすいからです。

 具体的な詳しい弁証については、今後のコラムで、具体的な方剤名をあげて、触れていければと思っております。

 

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