PMSとPMDDの治療について
月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)とは、月経前に、精神的あるいは身体的な不快な症状が出現し、月経開始とともに軽快あるいは消失するものをもののことを言います。
PMSの症状には、イライラ、憂うつ、不安、集中力低下、眠気、不眠、のぼせ、ほてり、食欲低下、食欲亢進、めまい、倦怠感、腹痛、便秘、下痢、頭痛、腰痛、むくみ、乳房の張りなどがあります。
そして、PMSのなかでも、とくに精神症状(憂うつやイライラなど)が強いものを、月経前不快気分障害(premenstrual dyspholic disorder : PMDD)と呼びます。
症状の程度の差のようにも見えるPMSとPMDDですが、治療はどのように違うのでしょうか。
まずは、PMSです。
軽いPMSには、規則正しい生活と、気分転換やリラックス法などによって、症状と上手に付き合っていけることということになりますが、中等度以上のPMSの場合には漢方薬やホルモン療法が用いられます。
ホルモン療法は婦人科の領域なので、ここではあまり触れませんが、排卵が起こって女性ホルモンが大きく変動することが原因なので、排卵を止めるためのホルモン治療ということになります。
それに対して、漢方薬は月経に関するホルモンの変動に直接作用するわけではありませんが、月経前の症状を緩和するのには有効です。
たとえば、肩が凝りやすく、頭痛がして、足が冷えて、顔がのぼせる、経血に塊が混ざりやすく、そのような身体所見で瘀血がある場合には、瘀血をターゲットとする桂枝茯苓丸を使います。元々雨の日の前の不調があったり、月経前に浮腫むことが多く、全体にやや冷えがあり、月経痛なども伴う方には、補血と利水を同時に行う当帰芍薬散を使いますし、火照りがあって、冷えのぼせもあり、イライラが強く、瘀血と胸脇苦満を認める場合には、もっと広い作用点を多い加味逍遙散を選びます。瘀血は目立たなくて火照りやイライラが強い場合には女神散、瘀血が著名でのぼせや便秘が強い場合には桃核承気湯など。他にも桂枝加竜骨牡蛎湯や柴胡加竜骨牡蛎湯、九味檳榔湯、加味帰脾湯を使用したり、併用することもあります。
では、PMDDについてはどうなのでしょうか。
PMDDのように精神症状が強い場合でも、PMSと同様に漢方薬やホルモン療法を行うことはあります。
当院ではホルモン療法は行えないので、漢方薬で治療をするわけですが、治療で劇的によくならなかったとしても、「生理前のイライラが少し軽くなって、子供や夫にイライラをぶつけずにすむようになって、気持ち的に楽になった」「症状はちょっと良くなっただけだけど、落ち込みをコントロールできるようになったから、漢方薬で様子をみます」と、漢方薬は有効であったりします。
しかし、PMDDほど精神症状が強い場合、私の経験的には、漢方薬では改善が難しいことが半分かそれ以上あると感じています。その場合には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という薬を用います。
このSSRIはうつ病でも用いられますが、うつ病で用いるよりも少ない用量でも十分効果があります。また、少量のSSRIによって症状がほとんど消失する方もおられますが、多くの方は気分の落ち込みやイライラが半分程度に軽くなった時点で「かなり楽になったからこれ以上は増量しなくてもいいです」「落ち込みやイライラはあるけれども、これくらい楽になれば全然問題です」というようにおっしゃる方が多くおられます。
産後からPMDDが始まったという方も多くおられます。とくに授乳中の方はお薬の心配があると思いますが、授乳中に安心して使えるSSRIもありますので、治療は無理だとあきらめないでください。
今日は、PMSとPMDDの治療について触れました。
PMSもPMDDも、その症状自体よりも、その症状に振り回されて取った行動の方がよっぽど辛く、後悔してしまうものです。症状に振り回されて、悪循環に入っていくようであれば、早めにご相談ください。
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