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当院が実践していきたい医療のかたち
心の不調で来院される患者様に、当院が実践していきたい医療のかたちがあります。今回は、そのかたちを二つに分けてお話しします。
まず一つ目は、精神科医と漢方医として2つの視点から、治療を提案していくというものです。漢方薬で治すことができない精神疾患はもちろん多くありますが、一方で漢方薬で治すことできる心の症状というのも多くあります。また、向精神薬で通院中に漢方薬が得意とするちょっとした不調がでてくることもしばしばあります。精神科専門医・指導医として責務を果たしながらも、漢方薬で効果が期待できる病態であれば、漢方内科医の視点から新たな選択肢を提案していきたいと思っております。
二つ目は、安心して治療を受けていただくためにとても重要なことです。漢方薬と言っても副作用がないわけではありません。漢方薬をいくつも重複して使用したり、漫然と長期間服用したりすると、当然副作用は出やすくなります。また、向精神薬についても、もちろん副作用はあります。治療開始時に作用の出る前兆としてでてくる一時的なものから、すぐに中止をしなければ危険なものまでいろいろあります。漢方薬と向精神薬のメリットを比べるだけでなく、しっかりと双方のデメリットも比べ、それぞれのリスクをお伝えしたうえで治療を選んでいっていただきたくのが本来あるべき形です。つまり、説明もなく出された薬を服用するのではなく、インフォームドコンセントをしっかり受けていただいたうえで安心して治療を受けていただければと考えております。
以上のように、精神科医と漢方内科医の二つの視点から考えうる最善の選択肢を提案し、それぞれのメリット・デメリットをしっかり説明したうえで、安心して治療を受けていただくという、当院の考える理想の医療のかたちを実践していくつもりです。どうかよろしくお願いいたします。
精神科を掲げていない理由
心療内科と精神科という診療科の違いをその成り立ちからお話し、当院が精神科専門医であるにも関わらず精神科を看板には載せていない理由にも触れます。
まず、当院が標榜し看板にも載せている心療内科についてです。「内科」という言葉は、19世紀になって医学分野から「外科」が独立して別れたときからはじまり、現在では循環器内科、消化器内科、呼吸器内科、腎臓内科など臓器によってかなり細分化されていますが、臓器ではない分けられ方をしている内科分野があります。それが「心療内科」です。1963年に九州大学で積極的に心理療法をおこなう内科というところから「心療内科」が始まりました。既に東京大学で標榜されていた「物療内科」と対比する意図もあったのかもしれません。身体症状を中心とする神経症や心身症をおもな対象し、心身医学的な診療および研究が行われています。
次に、精神科専門医でありながら当院では看板には載せていない「精神科」についてです。精神保健の歴史は非常に古くからあるものの、精神疾患が本格的に医学として扱われるようになったのは19世紀末にエミール・クレペリンによって精神障害が分類されるようになってからになります。精神科は当初は統合失調症などの精神病を主な対象としていましたが、そして徐々に統合失調症や躁うつ病、うつ病、認知症などの疾患だけでなく、新しい概念を作りながら、発達障害などの従来には治療対象をしていなかった疾患にまで診断や治療、研究の対象を広げています。今後も疾患の概念が広がって、さらに精神医学の対象とする範囲も広がっていくかもしれません。
成り立ちから考えると「心療内科」と「精神科」では大きく異なるものの、 精神医学の治療対象の広がりによって、現在では心療内科と守備範囲がかなり重なり合うようになってきていますが、クリニックの標榜科という点では見方が変わります。それは何かというと、やはり「精神科」の古いイメージがまだまだ残っているということです。年配の方ではこの傾向が強く、精神科を看板に掲げることによって、受診の敷居がとても高くなり、敬遠されてしまう方が多くおられます。
そのため、当院は軽症の方でも早い段階で受診しやすいように「精神科」をあえて掲げておりません。「精神科を標榜していなから大丈夫かな。ちゃんと診断や治療をしてくれるのかな。」と心配せず、このような意図をご理解いただければと思います。当院は漢方内科も併設しておりますので、小さな不調からでも心配なさらずにご相談ください。
うつ病の方の復職について
心療内科の外来を担当していると、当然うつ病で休職が必要になる方がおられます。休職に入り、治療をしっかり続けていくと、うつ状態は良くなってきますが、最後に難関があります。それが復職です。
会社によって、復職の基準というのが違います。定時勤務からでないと復職できないところ、午前中のみの時短勤務から開始できるところ、3か月間ほどの社外リワークプログラムを満了してからでないと復職がかなわないところ。会社の方針によって、復職時のハードルは結構違います。産業医としてもうつ病の復職に関わることが多いのですが、最近よく感じるのは、昔のような窓際的なポストが今は少なくなり、ちゃんと働ける状態にあるのかを企業側がとても重要視するようになってきていることです。
復職後3か月間ほどは猶予期間であり、リハビリ的な慣らし運転をしていく時期ですが、基本的にその期間を終了すると職場では周囲と同じように業務をこなしていかないといけなくなります。そのため、主治医としては、会社の復職時のハードルだけでなく、復職後3か月目以降を見越して、就労可能の判断をする時期を決定していかなければなりません。
私は、いつも生活記録表という、毎日の活動が確認できるものを書いてきてもらいます。症状と生活をを把握しながら、徐々に家だけではなく、外で過ごす時間を増やしていってもらいます。そして、最終的に9時から17時まで図書館で、資格などの勉強ができるところまでに回復してくると、復職の場所や時期の調整を始めていきます。これで多くの方はうまくいくのですが、困難な場合も当然あります。そのような場合は、外部のリワーク施設と連携して、復職を目指していきます。
皆不安を抱えながら復職をされていきます。しかし、復職まで十分な準備をし、復職後の猶予期間に十分な慣らし運転をしていけば、その不安は取り越し苦労だったことに気づきます。ちゃんと治療をし、しっかりと準備をすれば、もとのように働けるようになることが多いものです。今休職中の方は、定期的な通院治療のもとで、焦らずに社会生活のリハビリを着実に行っていきましょう。準備をしっかりすれば、不安だったものがちゃんと戻れるという確信に置き換わってくると思います。
関連記事:うつ病がちゃんとよくなっているのかがわかる指標ってあるんですか?、同僚にADHDではないかと言われたけど、、、、うつ病の方の不安について、うつ病/うつ状態のときの大きな決断について
うつ病の方の不安について
うつ病の方は、治療経過のなかでいくつもの不安を乗り越えていかねばなりません。休んだらどうなるのだろうか、休むことができるのか、ちゃんと治るのだろうか、ちゃんと復職できるかのだろうか、また再発するのではないだろうか、、、。
うつ病は治る病気ですが、ちゃんと治療しないとよくなりませんし、治療を放棄するとこじらせて長引いてしまうこともしばしばあります。そのため、ちゃんと治療を続けてもらえるように、治療者として不安をしっかりケアすることがとても大切です。
うつ病の経過中の不安は、大きく二つあります。一つ目は、うつ病の症状としての不安。もうひとつは、休職や復職、再発などの現実的な不安。実際に現れてくる不安は、どちらか一方というよりも治療の各段階で割合は異なれど両方が混在し、うつ病がよくなるにつれて徐々に後者のみになっていきます。
症状としての不安については、客観的にできるだけ冷静に病気の症状だと理解できること、これがとても重要です。これを症状の外在化と言います。治療者としては、休養や薬物療法、心理療法などの治療によってうつ病の不安症状の波が静まってくるまで、なんとか症状を外在化して少しでも楽に受け止められるようにサポートしていき、ときには抗不安薬を併用したりします(この時期限定の抗不安薬の使用であれば依存になることはほとんどありません)。
治療が進んでいくと、症状としての不安は目立たなくなってきますが、現実的な不安が置き換わるように出てきますので、差し引きの不安はさほど大きく減少しなかったりします。ここからは、しっかり今後の予想される経過を説明すること、実際に行動が拡大して良くなっていることを実感してもらうこと、本調子で働く姿を想像してもらうこと、などを心がけながら、できるだけ不安を解消できるように関わっていきます。
心療内科や精神科に受診されることがありましたら、不安なことはしっかりおっしゃっていただくのがよいと思います。治療によって治さないといけない不安、説明を受けることでよくなる不安、各種制度によるサポートを知ることで解消される不安など、いろいろあります。一人で不安を抱え込んで、治療を放棄することはしないでください。
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漢方の見立てには詳しい問診と診察が必要
漢方を勉強していると、中医学でも和漢(日本漢方)でも、主訴以外の全身の症状や身体診察所見が非常に重要であることがわかってきます。目の前にいらっしゃる患者様の情報を細かく聴取していると、漢方薬の効果の判定にあたって主訴以外の身体の変化まで観察することができ、これは私には大きな意味があります。自分の立てた病態仮説が合っていたのかどうかについて、目の前にいらっしゃる患者様とともに答え合わせをすることができるからです。診察では、(必要に応じてですが)頭から足先までの状態や症状の詳細を100項目以上にわたり確認したうえで、さらに追加の問診をして、ある程度の見立てを行い、最後に体の診察で見立てを固めていきます。私にはありがたいことに尊敬する漢方の師匠がいます。師の鋭い洞察に触れるたび、自分の病態解釈の甘さに気付かされ、心が引き締まると同時に、勉強への意欲と気合をもらえます。少しでも漢方薬の打率が上がり、患者様のこころとからだの健康のお役に立てるよう勉強に励んでいきたいと思っています。
漢方内科を受診される患者様や、心療内科で漢方治療を希望される患者様には、診察前に詳しい問診票への記入をお願いしています。お手間ではありますが、患者様に合った漢方薬を見つけるためには必要なことですので、ご理解とご協力をお願いいたします。