自閉スペクトラム症(ASD)におけるWAIS-IV検査所見:その特性と「見えている世界」
当院では、生きづらさの背景を探る一つの指標として、WAIS-IV(ウェクスラー式知能検査)を実施しています。
自閉スペクトラム症(ASD)の方の場合、この検査結果にはしばしば「際立った凸凹(スパイク)」が現れます。
今回は、ASDの方に見られやすい検査所見のパターンと、それが日常生活でどのような「困りごと」に繋がっているのかを解説します。
①指標間の極めて大きな「落差」
ASDの最大の特徴は、各指標の点数の差(ディスクレパンシー)が非常に大きいことです。
ADHDでも差が出ることはありますが、ASDの方の場合はさらに極端な「スパイク型」のグラフになることが多く、得意なことと不得意なことの境界が非常に鮮明です。
②「言語理解(VCI)」と「知覚推理(PRI)」のアンバランス
ASDの診断や理解において、この二つの指標のバランスは非常に重要です。
VCI(言語理解)が高い場合、語彙が豊富で知識も多いため、一見すると非常に能弁ですが、実は「言葉を文字通りに受け取る」傾向があります。
比喩や皮肉、文脈(空気を読むこと)の理解を測定する項目で苦戦することがあり、「知識はあるのにコミュニケーションが噛み合わない」という葛藤が生じます。
•PRI(知覚推理)が高い場合には、視覚的な情報の処理に長けており、パズルや図形、細かな変化に気づく力が非常に優れています。
一方で、全体像を捉えることよりも細部に意識が向きやすいため(セントラル・コーヒレンスの弱さ)、優先順位をつけるのが苦手だったり、急な予定変更にパニックになったりすることがあります。
③下位検査に見られる「特異なパターン」
指標の平均点だけでなく、その中身(下位検査)にASD特有の傾向が出ることがあります。
「積木模様」や「行列推理」が突出する場合には、視覚的なパターン認識が非常に鋭く、複雑な構造を一瞬で見抜く力を持っていることがあります。
「なぜ火事の時に窓を閉めるのか?」などの社会的な常識や推論を問う項目で点数が沈むことがあります。
これは知能の問題ではなく、「暗黙の了解」や「社会的なお約束」を学習する回路が独特であることを示唆しています。
④認知的熟達度(CPI)の低下
ワーキングメモリー(WMI)や処理速度(PSI)が、基礎的な思考力(GAI)を下回るケースが多く見られます。
これは、脳の「メモリ不足」と「処理の遅れ」となります。
高度な思考力を持っていても、複数の指示を一時的に保持したり、単純な作業を素早くこなしたりすることに多くのエネルギーを割いてしまいます。
これが、社会生活における「ひどい疲れやすさ(感覚過敏も含む)」の背景要因の一つとなっていることが少なくありません。
【当院が大切にしていること】
WAIS-IVの結果は、あくまで「あなたの特性を説明する一つの地図」です。
数値が低いからといって、能力が低いわけではありません。
「木を見て森を見ず」という言葉がありますが、ASDの方は「素晴らしい精度で木を観察できる力」を持っています。
その力が、社会生活という「森」の中でどうすれば活かせるのか。あるいは、森を歩く時にどのような「杖(環境調整)」が必要なのか。
検査結果を丁寧に読み解き、お一人おひとりの生活を楽にするための具体的なロードマップを共に考えていければと幸いです。

