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抗うつ薬の中止後症状について
昔は抗うつ薬というとうつ病の薬でしたが、最近では、うつ病だけでなく、不安障害全般(パニック障害、強迫性障害、PTSD、全般性不安障害など)、月経前不快気分障害(PMDD)などに使われるようになっています。
抗うつ薬によって症状がよくなり、再発のリスクの高い期間を過ぎたら、環境的にも心理的にも落ち着いていれば減薬を勧めていきます。そして、減薬中に再発がなければ、最後に抗うつ薬を中止していきます。
今日は、抗うつ薬を最終的に中止するときの注意点についてお話しします。
基本的には抗うつ薬は依存性がなく中止できますが、それでも中止後症状という現象が起きることがあります。
その中止後症状の多くは、薬を中止後5日以内に起こることがほとんどです。
中止後症状には、さむけ、筋肉痛、発汗、頭痛、吐き気、眠れない、夢をみる、風邪のような症状、めまい、音に敏感になる、涙が出続ける、落ち着かない、イライラする、理由もなく不安になる、集中力がでない、などがあります。
多くは軽い症状なので、様子をみるだけで徐々に落ち着いてきます。
症状が再発したと、焦って、薬をすぐに再開する必要はありません。
しかし、しばらく経っても落ち着かない場合には、中止後症状だけではなく、症状が再発していることもあるので注意が必要です。
何度も中止に失敗している方の場合には、薬を半錠、1/4錠(場合によってはそれ以上の少量)と減らしていって中止していきます。
半減期の長い抗うつ薬に切り替えてから、ゆっくり減薬して、中止していくという方法をとることもあります。
薬は、正しい知識によって正しい用い方をしないと、うまく増量できず治療が成功しなかったり、薬がやめれなくなってしまいます。心配な場合には、主治医の先生に相談してみてください。
狭義の更年期障害と広義の更年期障害
今日は更年期障害についてです。
狭義と広義というふうにあえて書いたのには、理由があります。順に説明していきたいと思います。
まずに、閉経と更年期についてです。閉経の平均年齢は50歳頃ですが、その閉経の前後5年間、合計10年間を更年期と呼びます。
卵巣から分泌されるエストロゲンとプロゲステロンは、20~30代でピークとなり、40歳頃から急激に低下がしていきます。
このエストロゲンとプロゲステロンの急激な低下によって、引き起こされるいろいろな身体や精神の不調を更年期障害と言います。
早い方だと、40歳頃から何らかの症状を自覚しはじめる方がおられる一方で、ほとんど不調を経験せずに更年期が過ぎていく方もおられます。
症状として多いのは、顔がほてり汗をかきやすい、手足がしびれて感覚が鈍くなる、寝つきが悪く途中で目を覚ましやすい、興奮しやすく神経質になる、くよくよと憂うつになる、めまいや吐き気がする、疲れやすい、関節が痛くなる、頭が痛い、動悸がする、腰が痛い、皮膚をアリがはる感覚がするなどです。
更年期障害が疑わしいときには血液検査で女性ホルモンを測りますが、実際に減少をしていた場合、とくに禁忌などがなければホルモン補充療法を提案されることと思います。そして、ホルモン補充療法でよくなってしまう方はもちろん一定数おられます。このような方はまさしく更年期障害なのですが、今回はこのような場合を「狭義の更年期障害」とします。
しかし、ホルモン補充療法などを行ってもあまり改善しない、あるいはホルモン値の低下がなく補充療法の適応にさえならないという方も多いのではないでしょうか。このような方を、私は「広義の更年期障害」と考え、治療をおこなっています。
女性の人生というのは、男性に比べて、人生における結婚、出産、育児などライフイベントが多く、その影響を大きく受けます。とくに、45~55歳頃の更年期というのは、多様な環境の変化が目まぐるしく襲ってきます。お子さんの友人との不和、不登校、反抗期、受験、進学などもあるでしょうし、ママ友やPTAの人間関係で悩んだり。結婚が早い方だとお子さんが独立し夫婦二人暮らしに戻ってかえってストレスが増えたり。旦那さんの定年によって生活が大きく変わったり。ご両親の病気、介護、他界などもこの時期だと思います。働く女性にとっては、仕事の責任が増してくる年齢でもあります。
女性の更年期の時期は、これらのライフイベントが一気に押し寄せてきて、精神的なストレスによって、心身の不調を容易にきたしてしまいます。
女子会などで友人に話すことでガス抜きしたり、ドラマや小説、音楽でカタルシスを得たり、趣味でリフレッシュしたりもよいかもしれません。ご自身の身体を顧みて来なかった方には食事を見直したり、漢方薬を試してみる手もあるかもしれません。いろいろ試してもよくならならないときには、向精神薬で治療した方がよいケースもあります。
私にとって、早く症状が良くなってほしいという気持ちは、辛い期間が短くなってほしいというだけでなく、イライラなどによる人間関係への負の影響を最小限に抑えたいという観点も同等あるいはそれ以上にあります。女性はとても共感力が強いため、イライラから起こしてしまった言動をしばらく引きずってしまったりすることがとても多く、悪いスパイラルに入ってしまうことがよくあるからです。
私は、更年期の女性の不調を日々診察することが多いため、このように「狭義の更年期障害」と「広義の更年期障害」というのを意識的に分けて考えています。婦人科で診るべきか、心療内科で診るべきか、というのが不明瞭になってしまって、患者様に迷惑をかけてはいけませんし。必要な心療内科・精神科の治療を見送ってしまってもいけないですので。
漢方的病態と漢方薬のベクトル
漢方治療というのは、その方の漢方的な状態を把握して、各生薬の特性を踏まえ方剤全体としてはどのような方向性と強さをもつのかを考えながら治療を行っていきます。
ベクトルというのは、方向性をもった量のことです。その方の漢方的な状態を把握するにも、方剤の方向性と強さを理解するにも、ベクトルという概念を用いると理解しやすいので、今回はあえてベクトルという言葉を使います。
その方の状態を漢方的なベクトルとして把握するためには、軸と、その軸を測る物差しが必要になります。これらの指標がなければその人の漢方的なベクトルがわかりませんし、治療に必要な方剤のベクトルも把握することができません。
では、どのような軸があるのでしょうか。
私は、気、血、水、火、精の5つで考えます。日本漢方では、気、血、水で考えることが多いですが、これに火と精を加えると病態を理解しやすくなります。火を気のなかに含める考え方もありますが、方剤のベクトルを理解するのには、火と気は分けたほうがよっぽど考えやすいです。
気・血・水・火・精の5つの軸によって、それぞれをどのように測るのでしょうか。
なかなか数字として測れるものではないので、気血水火精のそれぞれが、過剰か、正常か、不足か、うっ滞して分布異常をきたしているかを大まかに把握します。
気血水火精の過不足、うっ滞が全て異常なのでしょうか。
気は、過剰は問題となることはあまりありませんので、主に不足かうっ滞なのかを見ていきます。血は、主に不足していないかを中心に見ていきます。水や火は、過剰でも不足でもよくないので、過不足とうっ滞すべてをチェックしていきます。精については、主に不足がないかを見ていきます。
次に、これらをどのように判断するかについてです。
情報量として、一番多いのは問診だと思っています。主訴だけでなく、周辺の不調もチェックしていくと、大まかに、気血水火精のうち、どれがどうなっているから、今の状態になっているかが、浮かび上がってきます。
そのうえで、身体の所見を確かめていきます。舌や脈、腹、足の所見などから、想定した状態が実際に確認できるのかという視点で見ていきます。
このようにして、気血水火精のそれぞれのパラメータがわかってきます。あとは何をするかというと、その人を治するのに必要なベクトルに対して、最も近い方剤を見つける作業をして、終了です。あとは、効果を期待して、待つことになります。
もちろん、弁証はこれだけではないので、他の弁証の方法も別の機会で触れられればと思っています。
関連記事:漢方の見立てには詳しい問診と診察が必要、漢方治療で効果が見込める精神疾患、不安障害を漢方薬で診るということ
双極性障害のうつ状態の特徴
躁うつ病と言えばどんな病気かはイメージができると思いますが、双極性障害はイメージできるでしょうか。
躁うつ病は明らかな躁状態と明らかなうつ状態を繰り返す病気のことですが、双極性障害はそれよりも広い概念でもっと軽い病状も含んだ診断名です。
双極性障害には、症状が激しい順に、双極Ⅰ型障害、双極Ⅱ型障害、気分循環性障害などがあります。
双極Ⅰ型障害は、躁うつ病のように激しい気分変動があるため、診断が間違われることはあまりありませんが、双極Ⅱ型障害や気分循環性障害などは見逃されやすい病気です。
理由はいくつかあります。軽い躁状態は自分のなかで異常なものとは認識しにくいだけでなく、その爽快な状態を自身の本調子として自覚しておられます。そのため、主治医がうまく聞き出さないと、ご本人から軽躁状態の話が挙がることが少ないことが挙げられます。また、軽い気分変動の場合には、しっかり記録をつけて振り返らないと自分の波に気がつくことが難しかったりもします。特に女性の場合は月経関連の不調もあるのでさらにわかりにくく、月経の波か他の波なのか判別しにくいものです。
躁状態や軽躁状態以外にも、双極性障害の方の特徴があります。ここでは、あえて二つだけ、ご本人にも比較的わかりやすいものをお話しします。
一つ目は、うつ状態のときの睡眠と食事についてです。普通の単極性うつ病では「寝れない」「食べれない」というのが通常ですが、「寝すぎる」「食べ過ぎる」など非典型的なうつ状態の方は、将来双極性障害になっていく可能性があります。双極性の方が皆、過食と過眠をきたすわけではありませんが、典型的な単極性うつ病の方に比べて、このような傾向が目立ちます。
二つ目は、気分反応性というものです。どんな人でも、良いことがあれば嬉しくなり、悪いことがあれば悲しくなる。人間として正常な心理活動ですが、非定型うつ病の方には、喜怒哀楽などの心理反応が過剰に表れやすいと言われています。これを「気分反応性が高い」と言います。双極性障害の方にも、このような特徴を持ち合わせている方がおられます。良いことには容易にハイテンションとなり、悪いことには絶望的に落ち込む。このような明らかに過剰な情動変化を見つけたときにも今後の経過に注意が必要です。
「新型うつ病」という休日には元気になるといううつ病があります。これは医学的な診断名ではありませんが、昨今注目されているものです。多くは適応障害の類いであると思われますが、非定型うつ状態の方も前述の気分反応性の高さによって、新型うつ病のように見えることがあります。好きなことには元気がでてしまうため、休日に動けてしまうからです。そのため、新型うつ病と思われている方のなかに双極性障害が隠れていることがあります。
ここでは、過食と過眠、気分反応性について触れました。双極性障害には、他にも、うつ状態の持続期間の長さ、発症年齢の若さ、抗うつ薬で躁転、家族歴がある、産後うつ病、季節性があるなどの双極性障害を疑うポイントがありますので、別の機会で触れればと思います。
自律神経失調症は漢方の出番です
頭痛、全身倦怠感(体のだるさ)、疲労感(疲れやすい)、食欲低下、微熱、熱っぽい、顔の火照り、のぼせ、不安、いらいら、怒りっぽい、憂うつ、動悸、息苦しさ、手足の冷え、手足のしびれ、めまい、ふらつき、腰痛、背部痛、喉の痞え、口内炎、喉の渇き、胃の不快感、胃もたれ、胃痛、胸やけ、吐き気、下痢、便秘、腹痛、肩こり、筋肉の痛み、生理不順、寝汗、、、、
困っている症状があり、病院を訪れ、検査をして、何らかの異常が見つかり、病名がわかり、その治療を行って、症状はよくなれば、一件落着です。しかし、このようなケースばかりではありません。 いろいろ検査をしてもこれといった原因が見つからないことや、多少の検査結果の異常はあるけれども症状を説明できるほどではないことは頻繁にあります。
このようなときによく使われるのが「自律神経失調症」で、他に病気は見つからないため、自律神経のバランスが崩れて身体に失調をきたしているとして用いられます。自律神経は交感神経と副交感神経から構成されますが、実際に交感神経系と副交感神経系の働きを測定して診断されることはあまりありません。
現代医学的に自律神経の乱れとしか説明できないような場合でも、漢方医学的にみると原因は明らかであることがあります。自律神経失調症の中には、漢方のコモンディジィーズ(日常的に高頻度で遭遇する疾患)とも言える病態が多く隠れています。
私も漢方を勉強するまでは、「自律神経失調症」と診断されたという方に対して、「悪い病気はないのだから、心配せずに様子を見ましょう」とか、「精神的なストレスか一因だろうから少量の抗不安薬で様子を見ましょう」とか、説明していた時期もありました。ところが、漢方の知識と経験が付いてくると「これぞ、漢方の出番」という場面が本当に数多くあることに気が付きました。
残念ながら、今まで多くの「漢方の出番」を見逃していました。
もちろん、不規則な生活習慣や、ストレスとなっている環境を見直したりすることは必要です。それでも、なかなか症状がよくならない場合は漢方薬を試してみてもいいかもしれません。
漢方薬は、薬全体のベクトルが間違っていると、よくならないだけでなく、悪くなることもあります。漢方の専門の先生のところで相談してみるといいかもしれません。
その患者様にちゃんと合っていると、こころの症状にも、からだの症状にも、複数の症状に対して同時に効果が出てきます。
不眠とその原因について
睡眠のトラブルは、いろいろな要因によっておこってきます。身体の疾患や、心理的要因、薬の影響、精神疾患によるものなどいろいろな原因が不眠をきたします。
そして、その原因によって最初にどのように治療していくかが決まります。治療すべき原因があるにもかかわらず、初期の治療を間違えると効果が不十分なだけでなく、残念ながら睡眠薬の依存に至ってしまうこともあります。
では、不眠にはどのようなものがあるのでしょうか。今回は、大きく4種類に分けました。
- 身体の疾患からの不眠
- 体内時計のずれ
- 精神疾患
- 原発性の不眠症
原因がはっきりしているものを①~③として最初に挙げて、他に原因がないものを④として最後にしました。
①の代表的なものには、むずむず足症候群、周期性四肢運動障害、睡眠時無呼吸症候群などが挙げられます。これらの疾患には、従来の睡眠薬を投与するよりもそれぞれの疾患に対する治療が優先されます。
②のなかで多いものに、若年者には睡眠相後退、高齢者には睡眠相前進による概日リズムの障害があります。これらの体内時計の問題も、従来の睡眠薬ではなく、生活の改善や、高照度光療法、メラトニン受容体作動薬などの治療を行います。
③の精神疾患の場合も、さまざまな睡眠困難が出現します。睡眠の確保も並行して行うこともありますが、基本的には精神疾患そのものの治療を優先して行っていきます。また、精神疾患の治療中に薬による睡眠困難が出現することもあります。たとえば、抗うつ薬の副作用として睡眠困難が起こったり、抗精神病薬や抗うつ薬の副作用のむずむず足症候群やアカシジアによって睡眠困難に至ったりすることもあるので注意が必要です。
④のように、他に原因がないような場合を原発性不眠症と言います。まずは睡眠に悪いことをしないように生活の改善を試みます。そして、不眠の程度に応じて睡眠薬を使用していきます。従来の睡眠薬は依存性があり注意が必要ですが、最近では依存性が少ない睡眠薬も登場しています。睡眠薬の依存にならないためには、実生活での悪循環の要因を減らしながら、通院のたびに実現可能な目標を設定しなら、徐々に薬を回数を減らしていくことが大変重要です。
今回は不眠についてごく簡単に触れましたが、またどこかで詳しく触れれればと思っております。
関連記事:眠気と睡眠のリズムについて、本当に寝れていない?
不安障害を漢方薬で診るということ
心療内科や精神科のクリニックを受診すると、各不安障害の診断のもとSSRIなどの抗うつ薬あるいは安定剤の治療を提案されることが多いと思いますが、当院では症状の程度が軽い場合には、漢方治療と心理療法を提案することがあります。
今回は不安障害の方の漢方治療の特徴についてお話します。
漢方治療というのは「パニック障害なら○○湯。効果なければ○○湯」のような病名処方ではなく、漢方特有の診断法によって方剤を選んでいきます。その際には、症状とは一見関係のないような問診や身体診察が重要になります。
不安障害などのこころの症状であっても、もちろん身体の診察が必要になります。身体の診察というのは望診や脈診、腹診、舌診などです。なかでも、不安障害の方の場合には腹診が参考になることが多くあります。
腹診では、腹部の全体的の力の程度はどうか、胸脇苦満という肋骨弓に沿った腹壁の異常緊張があるのか、精神的緊張が非常に強い方に見られやすい腹直筋拘攣があるのか、 交感神経の昂りや精神的な興奮を反映する腹部の大動脈拍動があるかどうか、胃部振水音があるかどうか、など確認します。
そして、問診や他の身体所見も総合的に考慮して、生薬単位で何が必要かを頭の中で整理して、取捨選択していきます。
具体的には、柴胡による和解薬が必要か、竜骨、牡蛎のような重鎮安神薬を含む必要があるのか、竜眼肉、酸棗仁、遠志などの寧心安神薬が配されるべきか、芍薬、甘草などによる鎮痙作用が必要か、水に関連した病態で利水薬を入れておかなければならないか、半夏、茯苓などの痰に対する生薬が必要か、厚朴、陳皮、薄荷、蘇葉、香附子などの理気薬が必要か、瘀血に対する桃仁、牡丹皮、川芎、芍薬が必要か、黄芩 、黄連、黄柏、山梔子などの気分の清熱が必要か、地黄や赤芍、牡丹皮などで血熱を冷ます必要があるか、など。
このようなことを考えながら、どの方剤の組み合わせがよいのかを検討していきます。そして、可能であれば生薬数の少ない方剤を選びます。これは、生薬数の少ない方剤の方が一般的に効果が早く、効果も実感しやすいからです。
具体的な詳しい弁証については、今後のコラムで、具体的な方剤名をあげて、触れていければと思っております。
うつ病がちゃんとよくなっているのかがわかる指標ってあるんですか?
今回は、うつ病がちゃんとよくなっているかがわかる指標についてです。
うつ病にはHAM-D、MADRSなどの評価尺度がいくつかありますが、ここでは専門的なものではなく、うつ状態が改善していくとともに患者様自身が実感できるものいくつかを取り上げたいと思います。
私が外来診療を行うなかでチェックしていく点は数多くありますが、そのなかでとくに代表的な3つについて触れていきます。
治療経過中にいろいろな変化がでてきますが、そのなかでも実感しやすいものを一つ目に取り上げます。それは、「笑える」ということです。「笑う」というのはごく当たり前の行為ですが、この当然の行為がうつ状態ではできません。そのうえ、できてなかったことに長らく気が付いていないことがほとんどです。
うつ病が少しよくなってきたあたりで、「お笑い番組を見て久しぶりに笑いました。笑ってから、ずっと笑えてなかったことに気が付きました。半年ぶりくらいは笑ってなかったのではないでしょうか」とおっしゃります。
この「笑えた」という体験はご本人にとって、かなり実感しやすい指標で、明るい兆しになります。患者様にもちゃんと治療の効果がでてきることを身をもって体感してもらい、安心して引き続き治療を続けてもらうようにお伝えしていきます。
次の指標も、笑えるようになるのと同じように比較的実感しやすいものです。
新聞などの活字の文章を読んで、ちゃんと頭に入ってくるということです。これが結構重要で、うつ状態が改善して、頭がちゃんと回るようになってきた証拠です。とくに、元々新聞を読む日課があった方にはとても実感しやすく、「新聞などの活字の文章を読んで、頭に入ってくる」とおっしゃります。うつ状態が改善して、頭がちゃんと回るようになってきた証拠です。
「ずっと眺めていただけだったけど、最近は新聞の記事がちゃんと頭に入るようになってきた」というふうによくなってくると、ご自宅で規則正しい生活をしてもらうだけなく、徐々に図書館などへの外出を促していく段階になってきます。この「文章を読んで頭に入る」というのは、治療者としてどの段階にあるのかを確認するうえでとても重要な通過点です。
最後は、復職に向けての大事な指標です。うつ病は症状がよくなってからも、しばらく社会生活を休んでいた影響もあり、リハビリのような慣らし期間が必要になります。社会生活を営むという行為は脳も身体もずっと走り続けているようなものなので、しばらく社会生活を休んだあとに突然同じようなペースで走ろうと思っても当然そのようにはできません。
そのため、徐々に脳も身体も慣らし運転をしながら、走りの調子を確認していくことが必要になります。週5日間仕事していたときのような生活を試験的に送ってみるのです。具体的には、通いやすい図書館に9時に行き、17時まで勉強や作業などをしてみます(もちろん昼休みはとります)。最初のうちは午前中で疲れて昼頃に帰っていても、徐々に慣れてくると9~17時で勉強や作業ができるようになってきます。
このように、一日長時間脳を働かせても疲れなくなってきて、ご本人に「復職は大丈夫そう」という感覚がでてくると、主治医としては復職を視野に入れ、会社の復職基準などを確認しながら、就労可能の判断を行っていくことになります。
今回は、うつ病の治療過程で、私が必ず確認する3つの指標をごく簡単ですがご紹介しました。 ちゃんと治療を行えば、笑えるようになり、頭が回るようになり、きっと仕事も以前のようにできるようになります。 今回の3つの指標によって、ご自身の状態がよくなっていることを捉える助けになればと思っております。
関連記事:同僚にADHDではないかと言われたけど、、、、うつ病の方の復職について、うつ病の方の不安について、うつ病/うつ状態のときの大きな決断について
ストレスのせいだと片づける前に身体の検査をちゃんとしましたか?
精神的な不調から、身体のだるさ、吐き気や胃もたれ、胃の痛み、下痢、便秘、頭痛や頭の重い感じ、ふらつき、めまい、胸の痛み、胸やけ、動悸、息切れ、熱っぽさなどの多様なからだの症状が出現することは多くありますが、ここで注意しなければいけないことがあります。
それは、思い当たるストレスがあったとしても、身体の症状をそのストレスのせいだと片づけず、それぞれの臓器に問題がないかをまずは確かめる必要があることです。
たとえば、胃が痛いときにストレスのせいだと思い込んでいて検査をせずに放置したせいで胃がんなどの重大な疾患の早期発見のチャンスを逃してしまったり。動悸がして不安強く心が休まらないといっても、ずっと精神科で治療しているがよくならならず、のちのち甲状腺機能亢進症であったことがわかったり。ほかにも、身体の病気だけれども、ちゃんと検査をしていないせいで、発見が遅れ、不利益を被るということは実はわりとあります。
当院でも血液検査や心電図、睡眠時無呼吸の検査などでできる範囲の身体疾患は行っておりますので、糖尿病、肝疾患、腎疾患、甲状腺疾患、副甲状腺疾患、電解質異常、 不整脈、虚血性心疾患、睡眠時無呼吸症候群など、ある程度の身体疾患の早期発見は可能です。
しかし、それ以外の疾患の精査(胃カメラ、大腸カメラ、CT検査、MRI検査、心臓カテーテル検査など)については、あらかじめ専門の診療科で相談されておいた方がよい場合がありますのでご理解いただければと思います。
心療内科だけでなく、漢方内科の患者様も、それぞれの症状に対して、まず各診療科に受診され、治療の必要がないかをちゃんと調べておかれることをお勧めします。
パニック障害は治療でよくなります
きっかけもなく突然、動悸や息切れ、強い不安を伴い、ときには過呼吸を起こす発作のことをパニック発作と言い、このパニック発作が繰り返されるとパニック障害という診断になります。
パニック発作が何度も何度も繰り返されると、「またパニック発作が起こるのではないか」「パニック発作が起きたらどうしよう」という不安が強くなっていきます。これを予期不安と言います。また、「また新幹線でパニック発作が起きそうだから旅行はやめておこう」「電車の中でパニック発作が起きるのが怖いから、今日は外出はしないでおこう」という、発作が起こっては困る状況を避けるようになってきます。これを、広場恐怖と言います。これらの予期不安や広場恐怖が強くなってくると、外出自体を避けるようになり、社会生活が制限されるようになっていきます。
これらの症状は性格の問題だと片付けられがちですが、最近の研究では、脳のなかの危険を察知する「警報装置」のような働きをしている扁桃体という部位が過活動することによって、パニック発作がおこってくることがわかってきています。
そのため、この扁桃体の過活動による不安の出現を抑える薬によって、治療が可能となっています。薬を服用することによって、パニック発作自体が軽減していきます。そして、パニック発作が起こらなくなってくると、次第に予期不安や広場恐怖が軽減し、次第になくなっていきます。
大体の方は、薬の治療によって予期不安や広場恐怖もともに改善してくるのですが、パニック発作はなくなったけれど、どうしても広場恐怖がなくならない方がおられます。その場合は、認知行動療法をおこなっていく必要があります。どのような場面で恐怖を感じるか、どんな状況を避けているかなど、日々の振り返りを行いながら、身体と心が覚えてしまった不安と恐怖を徐々に解消していく取り組みを一緒におこなっていきます。この取り組みがうまくいくと、制限されていた社会生活が徐々に拡大し、以前の問題なかった頃のようになっていきます。
調子のよかった頃のような生活に戻ってから、しばらくは薬で症状を抑えながら、避けていた状況を避けないように意識しながら生活をしていきます。そうして半年から一年間程度予防をしていくと、「もう薬飲んでいる必要あるのかな」というくらいの気持ちになってきます。そうしてくると、薬の減らし時です。
薬をやめてからその後もずっと大丈夫という方もおられますが、再発をしてしまう方もおられます。その場合は、もう一度同じような治療をするとよくなります。何度も再発を繰り返しておられる方は、再発予防のために当面は薬を服用しておくことをお勧めします。
簡単にパニック障害の説明をさせてもらいました。お困りの方の参考になればと嬉しいです。