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PMS/PMDDについて①
当院では漢方治療を積極的に行っているため、月経前の不調で困ってらっしゃる方が多くお見えになります。
そのため、PMS(月経前症候群)とPMDD(月経前不快気分障害)について説明していきたいと思います。
PMS/PMDDの症状出現の明確なメカニズムはわかっていませんが、卵巣ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の変動が関与していると言われています。
排卵から月経発来までの黄体期の期間に、卵巣ホルモンは多く分泌されますが、黄体期の後半になってくると卵巣ホルモンは急激に減少します。それによって、精神症状が出現することがわかってきています。
エストロゲンは、脳内のセロトニン受容体の数を増加させたり、セロトニン活性を調節します。セロトニンは気分の調節に関与し、気持ちを安定させる作用があるため、エストロゲンが黄体後期に急激に減少することによって、情緒や気分に影響を及ぼすと言われています。
また、プロゲステロンの代謝産物も大きく関わっていると指摘されています。プロゲステロンの代謝産物は、脳内においてGABAA受容体に結合して、抗不安作用を示します。プロゲステロンの黄体期後期の急激な減少によって、この代謝産物も同じく急激に低下するため、抗不安作用が減弱し、強い不安感などの情緒面の不調を引き起こすと言われています。
加えて、心理社会的なストレスや生活習慣もホルモンの乱れに関与すると言われています。
PMSとPMDDによる精神症状が起こるのは、エストロゲンと、プロゲステロンの代謝産物の変動によるわけですが、ストレスや生活習慣によってホルモンバランスが乱れて、月経前の症状が悪化することもありますので、注意が必要です。
本当に寝れていない?
必要な睡眠時間というのは、年齢とともに減少していきます。
そのため、若いころのように寝れなくなったといっても、それは生理的に正常であることがあります。
睡眠時間の大体の目安です。
25歳・・・7.0時間
45歳・・・6.5時間
65歳・・・6.0時間
85歳・・・5.5時間
あくまでも目安であるため、適正な睡眠時間は個人差はありますが、加齢によって睡眠時間が減少してくるの事実は変わりません。
ご高齢の方は、自分の求める睡眠時間と生理的に必要な睡眠時間との間にミスマッチが起こりやすくなります。
関連記事:不眠とその原因について、眠気と睡眠のリズムについて
眠気と睡眠のリズムについて
今日は、眠気と睡眠のリズムについて、簡単に説明します。説明には、二過程モデルというものを用います。
まずは、概日リズム、いわゆる体内時計について触れます。
この概日リズムは、睡眠と覚醒の制御において非常に重要なものです。
概日リズムは、サーカディアンリズムとも言い、サーカ(約=概)とディアン(1日=24時間)をつなげたもので、約24時間リズムという意味です。
この概日リズムは、外部の明暗環境が一定でも、大体24時間に保たれます。脳の中の視交叉上核というところがこの体内時計を調節し、光で調整されます。この視交叉上核の一つ一つの細胞に時計があることがわかり、今では体のどの細胞にもこの時計があることがわかっています。
この概日リズムによる眠気は、昼過ぎに小さな山ががあり、その後眠気はなくなり、夕方にまた小さいな山があり、寝る頃に大きな山がきて、朝までその山が続きます。そして、朝起きると、眠気はなくなり、また昼過ぎに小さな山があり、、、、と毎日繰り返されます。
概日リズムは朝にリセットする必要があるので、朝日を毎朝ちゃんと浴びることが重要になります。
朝に起き、夜の程よい時間に寝ることができている人は、この体内時計が保たれているということです。
しかし、昼まで寝ることを繰り返していると、体内時計がずれてしまいます。とくに、遮光カーテンを閉めきって寝ていると、体内時計はずれやすくなります。
昼間まで寝ていたとしても、日光が入る部屋であれば、瞼を通して光が少しでも入っていれば、概日リズムはずれにくいと言われています。
睡眠と覚醒のリズムに関して、もう一つ重要なのものは、睡眠負債です。
睡眠負債というのは、文字の通り、睡眠の借金です。
覚醒している状態が続くと、睡眠の借金は徐々に増えていきます。
「寝だめ」という言葉があります。しかし、実際には睡眠を貯めておくことはできず、マイナスになった睡眠の借金を返済することしかできません。
概日リズムの眠気に加えて、睡眠負債による眠気が溜まってきて、夜の眠気が出てきます。
言い換えると、実際に感じる眠気は、先に述べた概日リズムによる眠気と睡眠負債による眠気を足し合わせたものということです。
徹夜明けでも頭がスッキリと起きてくるのは、朝になって睡眠負債は積み重なっていくにもかかわらず、概日リズムによる眠気がなくなるからです。
時差ぼけも、このモデルで説明できます。
この二過程モデルは、眠気の細かな複雑な変化を説明できない難点はあるようですし、情動の影響による眠気の減少などは無視していますが、大まかな説明はできると言われています。
睡眠で困った際には、今回の話をイメージしてみると、解決策がわかることもあるかもしれません。
もちろん、睡眠や精神の病気による睡眠障害は、このモデルでは説明できまませんので、生活は規則正しくしているけれども、睡眠がとれないというときには相談していただければと思います。
関連記事:不眠とその原因について、本当に寝れていない?
軽躁状態ってどんなの?
私は、うつ状態でお見えになった方には、必ず「頭も体も軽くて、頑張り過ぎていた時期はないですか?」と聞きます。
もし「ない」とおっしゃっても、うつ状態が典型的ではない場合には、
- 「寝る時間を惜しんで、何かに没頭していた時期はありますか?」
- 「次々とアイデアが浮かんで、過活動していた時期はありませんか」
- 「友達にテンションが高くて、心配されたことはないですか?」
- 「何でもできるように感じて、爽快に動き回っていた時期はないですか?」
などと表現を変えて、確認します。
いろいろな確認の仕方をしても、軽躁状態は見つけられないことがあります。
それは、軽躁状態というのは、双極性障害の方にとって、本来の状態(本調子)だと思っておられることが多いからです。
そのため、いくら聞いても「そんなことはない」ということになります。
周りの人の方が、よっぽどその人のことをよくわかっていることもあるので、同伴された家族や友人に聞いてみて、初めて軽躁状態が発覚することもあります。
なぜこれを知りたいかというと、うつ状態の方の中に、双極性障害の方が一定の割合で混じっているからです。
双極性障害は上記のような理由から見逃されやすく、うつ病の治療を始めて、数年経ってから、躁状態や軽躁状態をきっかけに、ようやく診断が双極性障害に切り替わることも多くあります。
治療についてはどうかというと、うつ病のうつ状態と、双極性障害のうつ状態とで、もちろん治療法が異なります。
うつ病は、新規抗うつ薬(SSRI、SNRI、Nassa)をメインで使いますが、双極性障害では、気分安定作用のある薬(クエチアピン、オランザピン、リチウム、ラモトリギンなど)を用います。
うつ病と双極性障害では治療薬が異なるため、診断がとても重要になります。治療が違っていると、当然良好な経過は得られません。
うつ状態の方が受診される場合には、自身の若い頃から気分の浮き沈むがなかったかを振り返ってみたり、家族や友人に過去にテンションが高い時期がなかったかについて聞いてきたりしてみてください。
診断の助けになりますので、大変助かります。
今回は、軽躁状態と双極性障害について触れ、受診の際のお願いを最後に付け加えさせてもらいました。参考になれば幸いです。
うつ病/うつ状態のときの大きな決断について
うつ病の治療を行っていると、仕事のことは絶対に避けて通れません。
今回は、退職や転職などの決断について大事なことをお話しします。
それは、「うつ状態のときには重大な決断をしない」ということです。
なぜかというと、うつ状態のときは、しっかり頭が回らず、冷静に物事を考えられないだけでなく、うつ症状によって悲観的な観測ばかりをしてしまうためです。そのため、良い判断はできません。
退職だけではありません。離婚や大きな取引ついても同じです。
これらの不可逆的(元に戻すことができない)な重大な決断は、頭がよく回るようになってから、冷静に物事を考えて行うのがよいと思います。
そのため、診察時にうつ病の方が「もう体が動かなくて会社に行けないから退職しようと思っている」「とにかく仕事から離れたいから退職届を出すつもりです」とおっしゃったとしても、「まずは休職して、よくなってから冷静に考えてください」と説得します。
うつ病の最中に退職してしまって、短期的には仕事の重圧がなくなって気持ちは楽になりますが、うつ病がよくなって本調子になってから後悔してしまうこともあります。仕事だけでなく、結婚や大きな取引も同様です。
一方で、決断を延期するように促さない場合もあります。
うつ症状が軽度で判断力がある方が「ここの会社はどうしても自分には合わないから転職をしようと思っている」とおっしゃったなら、多くの場合は反対しません。
明らかに衝動的な決定だったり、明らかに良くない決断である場合には「もう一週間だけ考えましょう」とアドバイスしたり、「もう少し時間をかけて一緒に考えていきましょう」と解決策を一緒に考えていく姿勢をとっていきます。
不用意に重大な決断をしてしまったことで、後々になって、心にも、社会的にも、大きな痛手を負ってしまうことがあります。
人の人生というのは、節目節目で、何かを選んで、場合によっては何かを捨てて、形づくられていきます。
うつ病になったということは、無理が生じてきた結果であり、人生の一つの節目になることが多くあります。
だからこそ、大きな決断は慎重にしていくべきですし、良い決断ができる状態で、しかるべき時期にしっかり行ってください。
できるかぎり不利益がないだけでなく、将来に活きる決断ができることを願っていますし、主治医としてもできるかぎり助けになれればと思っています。
関連記事:うつ病がちゃんとよくなっているのかがわかる指標ってあるんですか?、同僚にADHDではないかと言われたけど、、、、うつ病の方の復職について、うつ病の方の不安について
PMSとPMDDの治療について
月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)とは、月経前に、精神的あるいは身体的な不快な症状が出現し、月経開始とともに軽快あるいは消失するものをもののことを言います。
PMSの症状には、イライラ、憂うつ、不安、集中力低下、眠気、不眠、のぼせ、ほてり、食欲低下、食欲亢進、めまい、倦怠感、腹痛、便秘、下痢、頭痛、腰痛、むくみ、乳房の張りなどがあります。
そして、PMSのなかでも、とくに精神症状(憂うつやイライラなど)が強いものを、月経前不快気分障害(premenstrual dyspholic disorder : PMDD)と呼びます。
症状の程度の差のようにも見えるPMSとPMDDですが、治療はどのように違うのでしょうか。
まずは、PMSです。
軽いPMSには、規則正しい生活と、気分転換やリラックス法などによって、症状と上手に付き合っていけることということになりますが、中等度以上のPMSの場合には漢方薬やホルモン療法が用いられます。
ホルモン療法は婦人科の領域なので、ここではあまり触れませんが、排卵が起こって女性ホルモンが大きく変動することが原因なので、排卵を止めるためのホルモン治療ということになります。
それに対して、漢方薬は月経に関するホルモンの変動に直接作用するわけではありませんが、月経前の症状を緩和するのには有効です。
たとえば、肩が凝りやすく、頭痛がして、足が冷えて、顔がのぼせる、経血に塊が混ざりやすく、そのような身体所見で瘀血がある場合には、瘀血をターゲットとする桂枝茯苓丸を使います。元々雨の日の前の不調があったり、月経前に浮腫むことが多く、全体にやや冷えがあり、月経痛なども伴う方には、補血と利水を同時に行う当帰芍薬散を使いますし、火照りがあって、冷えのぼせもあり、イライラが強く、瘀血と胸脇苦満を認める場合には、もっと広い作用点を多い加味逍遙散を選びます。瘀血は目立たなくて火照りやイライラが強い場合には女神散、瘀血が著名でのぼせや便秘が強い場合には桃核承気湯など。他にも桂枝加竜骨牡蛎湯や柴胡加竜骨牡蛎湯、九味檳榔湯、加味帰脾湯を使用したり、併用することもあります。
では、PMDDについてはどうなのでしょうか。
PMDDのように精神症状が強い場合でも、PMSと同様に漢方薬やホルモン療法を行うことはあります。
当院ではホルモン療法は行えないので、漢方薬で治療をするわけですが、治療で劇的によくならなかったとしても、「生理前のイライラが少し軽くなって、子供や夫にイライラをぶつけずにすむようになって、気持ち的に楽になった」「症状はちょっと良くなっただけだけど、落ち込みをコントロールできるようになったから、漢方薬で様子をみます」と、漢方薬は有効であったりします。
しかし、PMDDほど精神症状が強い場合、私の経験的には、漢方薬では改善が難しいことが半分かそれ以上あると感じています。その場合には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という薬を用います。
このSSRIはうつ病でも用いられますが、うつ病で用いるよりも少ない用量でも十分効果があります。また、少量のSSRIによって症状がほとんど消失する方もおられますが、多くの方は気分の落ち込みやイライラが半分程度に軽くなった時点で「かなり楽になったからこれ以上は増量しなくてもいいです」「落ち込みやイライラはあるけれども、これくらい楽になれば全然問題です」というようにおっしゃる方が多くおられます。
産後からPMDDが始まったという方も多くおられます。とくに授乳中の方はお薬の心配があると思いますが、授乳中に安心して使えるSSRIもありますので、治療は無理だとあきらめないでください。
今日は、PMSとPMDDの治療について触れました。
PMSもPMDDも、その症状自体よりも、その症状に振り回されて取った行動の方がよっぽど辛く、後悔してしまうものです。症状に振り回されて、悪循環に入っていくようであれば、早めにご相談ください。
関連記事:PMS/PMDDについて①、PMS/PMDDについて②、PMS/PMDDについて③
双極性障害のうつ状態に用いられる代表的な気分安定作用のある薬
双極性障害のうつ状態の治療についてです。表題には、気分安定薬ではなく、あえて気分安定作用のある薬と書きました。
双極性障害の方は躁状態に比べうつ状態の期間が長いことが多く、うつ状態が長らく生活に支障を及ぼしてしまうことがあります。
双極性障害のうつ状態にも昔は抗うつ薬も使われていましたが、最近では抗うつ薬のみでの治療は、躁転を引き起こしたり、かえって気分の波を荒げたりするため勧められていません。
双極性障害のうつ状態にどんな薬を使うかというと、それが気分安定作用のある薬です。
双極性障害のうつ状態には、クエチアピン(商品名セロクエル、ビプレッソ)、オランザピン(商品名ジプレキサ)、リチウム(商品名リーマス、炭酸リチウム)、ラモトリギン(商品名ラミクタール)などが勧められています。
各薬剤についての代表的な注意点について簡単に触れます。
まず、気分安定薬の代表格であるリチウムです。これは躁状態にもうつ状態にも用いられ、双極性障害の治療では欠かすことのできない大事な薬です。とくに爽快なタイプの躁状態には第一選択で使うことの多い薬です。
副作用としては、急性や慢性の中毒の危険性、胎児への催奇形性、母乳への移行などがあります。
急性や慢性の中毒については定期的な血液検査や、中毒症状の早期発見、高齢者の方は定期的に休薬期間を設けるなどによって、多くを防ぐことができるので、大量服薬をしなければ、過剰に怖がる必要はありません。
催奇形性は、将来妊娠の可能性がある若年女性には当然注意が必要ですので、妊娠の可能性がある方では避けなければいけません(私は、妊娠の予定がない若年女性に対しても、最初からはリチウムは使わないようにしています)。
リチウムは、授乳中に注意しなければいけない精神科の薬として有名で、母乳にかなりの量が移行してしまいますので、授乳中は避けなければいけません。
ほかにも、リチウムは手の震えや喉の渇きがでることがよくあります。これらは治療に適切な血中濃度でも出現することが多いので、副作用とのバランスを考えながら、薬の用量を調節する必要があります。
次にラモトリギンについてです。ラモトリギンは、てんかんにも用いられる気分安定薬です。
リチウムと違うのは、躁状態よりもうつ状態への効果が強いことです。
胎児への催奇形性のリスクをあげないこともリチウムとは異なりますが、乳汁には移行するためリチウムと同じく母乳栄養は控えなければいけません。
ラモトリギンの一番の注意点は、重篤な皮膚障害を起こす可能性があることです。
この深刻な副作用は、非常に稀ですが、命にかかわることもあるので慎重にならなければいけません。
薬を初期用量から徐々に増やしていく投与初期の段階で起こると言われています。添付文書の増量ルールも守っていても発生したという報告もあるので、厳重に注意しなければなりません(ちなみに、私は添付文書よりもさらにゆっくりと増量していくようにしています。治療用量まで増量するのに時間がかかってしまいますが)。とくに、バルプロ酸(商品名デパケン、セレニカ)と併用する場合には注意が必要です。
ラモトリギンは増量するのに時間がかかりますが、他の薬で効果がなかった方がこの薬でうつ状態が目に見えてよくなることもしばしばありますえので、正しい知識で正しく怖がって治療に当たる必要があります。
最後に、クエチアピンとオランザピンに触れたいと思います。
両剤とも、元々は統合失調症などの幻覚妄想状態に使う薬でした。しかし、最近になって気分安定作用があることがわかってきたため、双極性障害にも用いられるようになってきています。
長所としては、リチウムやラモトリギンのような重大な副作用がないことです。妊娠中にも授乳中にも明らかな悪影響はないと言われており、有益性が上回れば使用も可能です。
しかし、欠点はあります。
一つ目は、糖尿病を引き起こすことがあることです。 食欲が増えたり、太りやすくなったりして、血糖値が挙がりやすくなり、両剤とも糖尿病には禁忌(絶対使ってはいけない)となっています。定期的に、高血糖をきたしていないかをチェックしていく必要があります。
二つ目は、眠気が出やすいことです。そのため、気分安定作用がでる用量まで増やせないことが多くあります。慣れてくると眠気は多少減ってきますが、それでも眠気が耐えられないというケースもどうしてもあります。
3つ目は、ムズムズしてじっとしていられないアカシジアという副作用が出現することがあることです。このアカシジアが出た場合は、薬を減量したり、変えたり、副作用止めを追加しなければなりません。
今日は、双極性障害のうつ状態の代表的な4つの治療薬の、代表的な特徴について触れました。
薬剤によって副作用が異なり、合併症や性別、躁状態やうつ状態のタイプなどによって、薬を選んでいきます。開始後は副作用に確認し、問題なければ、治療に必要な用量まで増やし、効果を判定していきます。副作用のため増量できない、あるいは増量できたが効果がないということであれば、もう一度薬を見直して、他のものを検討し、また効果を判定していきます。そして、治療中には数か月毎には血液検査をして、副作用が出ていないかのチェックを続けていきます。このような作業を繰り返しながら、副作用が少なく、効果のある薬を見つけていきます。
治療を受けておられる方、あるいは今から治療を受けようとされている方の参考になれば幸いです。
今日は薬について触れましたが、治療は薬物療法だけではありません。双極性障害の治療のゴールは「躁状態やうつ状態の波をゼロにすること」ではなく、「躁状態やうつ状態の波とうまく付き合っていける程度に症状をコントロールしていくこと」だと考えています。実際の治療では、どのように気分の波を乗りこなしていくかという観点も重要になってきます。機会があれば、その点についても触れればと思っています。
抗うつ薬の中止後症状について
昔は抗うつ薬というとうつ病の薬でしたが、最近では、うつ病だけでなく、不安障害全般(パニック障害、強迫性障害、PTSD、全般性不安障害など)、月経前不快気分障害(PMDD)などに使われるようになっています。
抗うつ薬によって症状がよくなり、再発のリスクの高い期間を過ぎたら、環境的にも心理的にも落ち着いていれば減薬を勧めていきます。そして、減薬中に再発がなければ、最後に抗うつ薬を中止していきます。
今日は、抗うつ薬を最終的に中止するときの注意点についてお話しします。
基本的には抗うつ薬は依存性がなく中止できますが、それでも中止後症状という現象が起きることがあります。
その中止後症状の多くは、薬を中止後5日以内に起こることがほとんどです。
中止後症状には、さむけ、筋肉痛、発汗、頭痛、吐き気、眠れない、夢をみる、風邪のような症状、めまい、音に敏感になる、涙が出続ける、落ち着かない、イライラする、理由もなく不安になる、集中力がでない、などがあります。
多くは軽い症状なので、様子をみるだけで徐々に落ち着いてきます。
症状が再発したと、焦って、薬をすぐに再開する必要はありません。
しかし、しばらく経っても落ち着かない場合には、中止後症状だけではなく、症状が再発していることもあるので注意が必要です。
何度も中止に失敗している方の場合には、薬を半錠、1/4錠(場合によってはそれ以上の少量)と減らしていって中止していきます。
半減期の長い抗うつ薬に切り替えてから、ゆっくり減薬して、中止していくという方法をとることもあります。
薬は、正しい知識によって正しい用い方をしないと、うまく増量できず治療が成功しなかったり、薬がやめれなくなってしまいます。心配な場合には、主治医の先生に相談してみてください。
狭義の更年期障害と広義の更年期障害
今日は更年期障害についてです。
狭義と広義というふうにあえて書いたのには、理由があります。順に説明していきたいと思います。
まずに、閉経と更年期についてです。閉経の平均年齢は50歳頃ですが、その閉経の前後5年間、合計10年間を更年期と呼びます。
卵巣から分泌されるエストロゲンとプロゲステロンは、20~30代でピークとなり、40歳頃から急激に低下がしていきます。
このエストロゲンとプロゲステロンの急激な低下によって、引き起こされるいろいろな身体や精神の不調を更年期障害と言います。
早い方だと、40歳頃から何らかの症状を自覚しはじめる方がおられる一方で、ほとんど不調を経験せずに更年期が過ぎていく方もおられます。
症状として多いのは、顔がほてり汗をかきやすい、手足がしびれて感覚が鈍くなる、寝つきが悪く途中で目を覚ましやすい、興奮しやすく神経質になる、くよくよと憂うつになる、めまいや吐き気がする、疲れやすい、関節が痛くなる、頭が痛い、動悸がする、腰が痛い、皮膚をアリがはる感覚がするなどです。
更年期障害が疑わしいときには血液検査で女性ホルモンを測りますが、実際に減少をしていた場合、とくに禁忌などがなければホルモン補充療法を提案されることと思います。そして、ホルモン補充療法でよくなってしまう方はもちろん一定数おられます。このような方はまさしく更年期障害なのですが、今回はこのような場合を「狭義の更年期障害」とします。
しかし、ホルモン補充療法などを行ってもあまり改善しない、あるいはホルモン値の低下がなく補充療法の適応にさえならないという方も多いのではないでしょうか。このような方を、私は「広義の更年期障害」と考え、治療をおこなっています。
女性の人生というのは、男性に比べて、人生における結婚、出産、育児などライフイベントが多く、その影響を大きく受けます。とくに、45~55歳頃の更年期というのは、多様な環境の変化が目まぐるしく襲ってきます。お子さんの友人との不和、不登校、反抗期、受験、進学などもあるでしょうし、ママ友やPTAの人間関係で悩んだり。結婚が早い方だとお子さんが独立し夫婦二人暮らしに戻ってかえってストレスが増えたり。旦那さんの定年によって生活が大きく変わったり。ご両親の病気、介護、他界などもこの時期だと思います。働く女性にとっては、仕事の責任が増してくる年齢でもあります。
女性の更年期の時期は、これらのライフイベントが一気に押し寄せてきて、精神的なストレスによって、心身の不調を容易にきたしてしまいます。
女子会などで友人に話すことでガス抜きしたり、ドラマや小説、音楽でカタルシスを得たり、趣味でリフレッシュしたりもよいかもしれません。ご自身の身体を顧みて来なかった方には食事を見直したり、漢方薬を試してみる手もあるかもしれません。いろいろ試してもよくならならないときには、向精神薬で治療した方がよいケースもあります。
私にとって、早く症状が良くなってほしいという気持ちは、辛い期間が短くなってほしいというだけでなく、イライラなどによる人間関係への負の影響を最小限に抑えたいという観点も同等あるいはそれ以上にあります。女性はとても共感力が強いため、イライラから起こしてしまった言動をしばらく引きずってしまったりすることがとても多く、悪いスパイラルに入ってしまうことがよくあるからです。
私は、更年期の女性の不調を日々診察することが多いため、このように「狭義の更年期障害」と「広義の更年期障害」というのを意識的に分けて考えています。婦人科で診るべきか、心療内科で診るべきか、というのが不明瞭になってしまって、患者様に迷惑をかけてはいけませんし。必要な心療内科・精神科の治療を見送ってしまってもいけないですので。
漢方的病態と漢方薬のベクトル
漢方治療というのは、その方の漢方的な状態を把握して、各生薬の特性を踏まえ方剤全体としてはどのような方向性と強さをもつのかを考えながら治療を行っていきます。
ベクトルというのは、方向性をもった量のことです。その方の漢方的な状態を把握するにも、方剤の方向性と強さを理解するにも、ベクトルという概念を用いると理解しやすいので、今回はあえてベクトルという言葉を使います。
その方の状態を漢方的なベクトルとして把握するためには、軸と、その軸を測る物差しが必要になります。これらの指標がなければその人の漢方的なベクトルがわかりませんし、治療に必要な方剤のベクトルも把握することができません。
では、どのような軸があるのでしょうか。
私は、気、血、水、火、精の5つで考えます。日本漢方では、気、血、水で考えることが多いですが、これに火と精を加えると病態を理解しやすくなります。火を気のなかに含める考え方もありますが、方剤のベクトルを理解するのには、火と気は分けたほうがよっぽど考えやすいです。
気・血・水・火・精の5つの軸によって、それぞれをどのように測るのでしょうか。
なかなか数字として測れるものではないので、気血水火精のそれぞれが、過剰か、正常か、不足か、うっ滞して分布異常をきたしているかを大まかに把握します。
気血水火精の過不足、うっ滞が全て異常なのでしょうか。
気は、過剰は問題となることはあまりありませんので、主に不足かうっ滞なのかを見ていきます。血は、主に不足していないかを中心に見ていきます。水や火は、過剰でも不足でもよくないので、過不足とうっ滞すべてをチェックしていきます。精については、主に不足がないかを見ていきます。
次に、これらをどのように判断するかについてです。
情報量として、一番多いのは問診だと思っています。主訴だけでなく、周辺の不調もチェックしていくと、大まかに、気血水火精のうち、どれがどうなっているから、今の状態になっているかが、浮かび上がってきます。
そのうえで、身体の所見を確かめていきます。舌や脈、腹、足の所見などから、想定した状態が実際に確認できるのかという視点で見ていきます。
このようにして、気血水火精のそれぞれのパラメータがわかってきます。あとは何をするかというと、その人を治するのに必要なベクトルに対して、最も近い方剤を見つける作業をして、終了です。あとは、効果を期待して、待つことになります。
もちろん、弁証はこれだけではないので、他の弁証の方法も別の機会で触れられればと思っています。
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